2008年04月30日

神州魔法陣

神州魔法陣 (1981年)

  •  都筑 道夫

  • 販売元/出版社 桃源社

  • 発売日 1981-01

Amazon

振り返ってみると都筑道夫の本は意外と復刊されている。
創元推理文庫からは<退職刑事>シリーズと『誘拐作戦』、扶桑社文庫では『なめくじに聞いてみろ』、ちくま文庫からは『都筑道夫恐怖短篇集成』が三巻、本の雑誌社からは『都筑道夫少年小説コレクション』全六巻、そして光文社文庫は<なめくじ長屋>シリーズと『都筑道夫コレクション』の全十巻。
初期のトリッキーなミステリは網羅されているし、『都筑道夫少年小説コレクション』は入手困難だった作品と単行本未収録作品も多数収録と垂涎のコレクションだ。
というわけで今の出版状況を考えると、都筑道夫の復刊数に関してはまあ妥当なところなんじゃないのかと思うのだが、そこはファンの我が儘さで、時代物がもう少し復刊されてもいいんじゃないのかと思ったりもしている。
『神州魔法陣』などは桃源社で出た後、富士見時代小説文庫で文庫化されたけれども、やはり文庫化されたのがちょっとマイナーなレーベルだったせいか、埋もれてしまったままだ。もっとも、全著作のなかで最長の長編なので文庫化するにしても二分冊するしかなく、分量的な面でも不遇な扱いを受けていたという可能性も高い。
しかし、伝奇小説というのは長くなければ面白くないのだ。
いや、面白いからこそ長くなるというべきか。
この本も長さに比例する形で面白い……といいたいところだけれども、まあ……ちょっとそこまで言い切れないところが残念だ。
平賀源内が悪役というのはちょっと数少ない設定だろうし、独楽を自在に操る独楽使いのこそ泥や、やたらと腕の立つ謎の素浪人、アタックアンドカウンターアタックの物語といい、どこをどう切りとっても都筑道夫らしさにあふれていて、読んでいて楽しいのだけれども、手放しで楽しいのは江戸のまちを舞台とする第一部までだ。東海道を通って京都へと向かう第二部になると失速する。
主人公が移動し始めると個々の展開が断片的になり敵の攻撃がワンパターン化してくるのである。もっとも敵の攻撃のワンパターン化には理由があって、終盤にその理由が明らかとなるのでそれはそれで驚かされ、そして納得するのだが、だからといってそれまでの残念さが帳消しとなるとは限らないのである。
だからといって、第二部がつまらないというわけでは決してないのだけれども、都筑道夫の作品は、主人公があまり動き回らない方が面白くなるのではないだろうかと思ったりもする。  

タグ :都筑道夫

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)桃源社
2008年04月29日

四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1)

  •  森見 登美彦

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2008-03-25

Amazon/楽天ブックス



森見登美彦という人は二作目でこんなにも濃厚な話を書いていたのかと思うと頭が下がる思いだ。
とにかく主人公がのたまう自虐的なセリフが私の心に突き刺さるいや、染み渡るのである。
無論、主人公と同じような学生生活を送ってきたというわけではないし、それに近い人生を送ってきたわけでもなく、かなりかけ離れた人生を送ってきたけれども、だからといって勝ち組だったのかといえば勝ち組からはかけ離れて負け組に近いし、上下関係で見れば要するに主人公と同じレベルにいたということである。
だからこそ心に染み渡るのだ、主人公のセリフが。
四つの話がそれぞれ入学したての主人公が取った行動によって起こった人生の分岐後の話であり、大きく変化していながらも大局的な視点で見れば小さな変化でありそして結末は同じという部分が素晴らしい。
ここまで矮小的かつ雄大な平行世界物の物語も珍しいのではないだろうか。特に四話目における無限に広がる四畳半世界はその極地である。四畳半という小さな空間が無限に繋がるのだ。矮小でありながら巨大な空間なのである。  
タグ :森見登美彦

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)角川文庫
2008年04月28日

弥勒の掌

弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)

  •  我孫子 武丸

  • 販売元/出版社 文藝春秋

  • 発売日 2008-03-07

Amazon/楽天ブックス



うーむ、実に変な話だった。
読み終えて、さすがは『殺戮にいたる病』を書いた作者だけのことはあるなあとひたすら感心してしまったよ。
『殺戮にいたる病』は「無責任社会派」などと言われたりしたのだけれども、この本も似たような感じだよなあ。
とにかく薄い本なので、複雑な事件などは起こらない。いたってシンプルで、それ故にどうでもいいような事件というか、謎そのものにあまり魅力が感じられないところがちょっと難点かも。しかし、どうでもいい謎などあるわけもなく、何かしら作者が企んでいるわけで、この物語がどんな地点へと着地するのだろうかと気になりながら読み進めるのだが、なかなか着地地点が見えない。しかしあまりにも見えなさすぎるので、もうどうなってもいいやという気分になってきたあたりの残り10ページほどで愕然とする。
いやはや、まあちょっとうまく出来すぎ何じゃないかと思う部分もあるけれども、一気に謎が解決してそして何よりも驚くのは身も蓋もないというか、なんとも無責任な結末の付け方なのだ。
うーむ、この酷い結末に思わず感心してしまったのである。  
タグ :我孫子武丸

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)文春文庫
2008年04月25日

検死審問―インクエスト

検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)

  •  パーシヴァル・ワイルド

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-02

Amazon/楽天ブックス



なんだかんだいっていろいろな本が復刊されるようになった。
その分だけ出版点数が増えていればいいのだけれども、全体の数が変わらないのであればそれだけ新刊が少なくなってきているというわけで、喜ぶべきなのかそれとも憂うべきなのか微妙なところで、特に東京創元社がここまで過去の作品を復刊し続けている有様は心配にもなってくる。
まあそれはともかく実に変な話だった。いや変な話というのは悪い意味ではない。全編に流れるユーモアは、新訳というおかげもあるかも知れないが、いま読んでも全然色あせていなくて楽しめるし、事件の真相はといえば、さりげない伏線と審問記録という体裁の巧妙な作りによってうまく隠され最後まで楽しむことが出来る。
全編全てにおいて無駄がないというべきか、分量的にはコンパクトにまとまっていながらも読み終えて十分な満足感を得ることが出来るという点はさすがだと言わざるを得ない。ミステリとしても、ミステリ以外の小説としても楽しめるのだ。
ああ、続編が楽しみである。  

Posted by Takeman at 12:30Comments(1)TrackBack(0)創元推理文庫
2008年04月24日

日の砦

日の砦 (講談社文庫 く 4-4)

  •  黒井 千次

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-14

Amazon/楽天ブックス



特に何か特別なことが起こるわけでもなく、ごく当たり前の日常が描かれているのだけれども、そこに描かれている日常は安定した生活であるのに何故か不安定な状態として描かれ、読んでいてこちらまで不安になってくる。
例えば、近所に住む老女が自宅の玄関の鍵をを開けようと四苦八苦しているので手伝おうとしたら鍵が合わない、という話がある。そして老女が持って出たのはこの鍵だけだという。合わない鍵でなぜ玄関の扉が閉まっているのか不思議なのだが理由は一緒に住む老女の娘が用心のためにオートロックにしたからである。
そして娘は夜にならなければ帰ってこない。ほっとくわけには行かないので自分の家に連れてくるのだが、主人公たちは、このまま自分の家に居座られてしまったらいやだなあなどと思ったりもする。困っている人をほっとけないけれども必ずしも善人ではない主人公たち。
夜になって老女の娘が帰ってきたので、老女がこんな時間まで外にいた理由を説明をしてあげようと老女と一緒に家まで行くのだが、老女はそそくさとチャイムをならし、半分ほど開いた扉からするりと家の中に入ってしまう。そして玄関の鍵はカチリとしめられ、誰も出ては来ない。主人公はその場に一人取り残されるのである。
その他に、家が老朽化してきたので立て直そうという話がある。
家族の会話でその話が出た次の日から、勝手口の扉が開かなくなったり、床がふわふわしているような感じがしてきたり、真夜中に何か大きい物がドシンと落ちる物音がしたりする。そしてその話の題名は「家の声」。
なにやらオカルティックな方向へと進んでいくのだが、超常現象などは起こらない。あくまで普通の日常が描かれるままなのである。しかし不安な気分は残ったままだ。
最終話では、結婚して外へ出ていった長男夫婦から、今からそっちに行ってもいいかという電話がかかってくる。いつもなら少なくとも前日には連絡を入れてから来るのに、何かあったのだろうかと主人公は考える。もちろん読者も何かが起こることを期待する。しかし、何があったのかは描かれないまま物語は終わるのである。
そして何があったのかわからないままという、もやもやとした得体の知れぬ不安感が頭の中に漂ったままの状態で本を置かなければならないのだ。  
タグ :黒井千次

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)講談社文庫
2008年04月23日

とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)

  •  犬村 小六

  • 販売元/出版社 小学館

  • 発売日 2008-02-20

Amazon/楽天ブックス



その昔、『空戦マッハの戦い』というウォー・シミュレーションボードゲームがあった。
戦闘機によるドッグファイトという三次元の世界を二次元のボード上でシミュレートする、まあ、まさにゲームデザイナーの執念の固まりによって生み出されたようなゲームだった。
空中戦を楽しめるようにゲーム化したのではなく、かろうじてゲームとして遊べるレベルまで仕方なくシミュレートを簡略化したというゲームなのでとにかく覚えなくてはいけないルールは膨大だった。2秒程度のドッグファイトを30分以上かけてシミュレートして遊ぶのである。それなりの覚悟がなければ苦行に近い。しかもスプリットSやらバレルロールといったマニューバでさえシミュレート可能だったのだが、二次元上でシミュレートするので、盤上では小さな駒が右へ左へとちょっとだけ動くだけという視覚的には恐ろしく地味なゲームだった。
それはともかくとしてこの物語は、何処かで見たような設定、何処かで見たような展開、何処かで見たような結末でありながら、実によくできたウェルメイドの物語だ。
こう書くと全然褒めていないように見えるのだけれども、そんなことはない。いや実際、ここまですがすがしい物語は久しぶりなのである。
確かに欠点をあげればきりがない。どういう条件がそろえばこんな環境ができあがるのかさっぱり判らない大瀑布などは、まあファンタジーということでその設定に関しては目をつぶりまくったとしても、それでもせっかくこれだけのビジュアル的な要素を作り出しておきながら、世界設定の一要素としてだけしか使っていないあたりは文句の一つも言いたくもなる。
さらには、お前はドラえもんの四次元ポケットかと突っ込みたくなるほど、次から次へと奥の手を繰り出す主人公もどうかと思うのだが、終盤のドッグファイトにおける高速かつ高密度な展開は燃える。
ここまで見せてくれれば、我慢できない欠点でさえ何処かへと吹き飛んでしまうのだ。
まあ人によって見所は違ってくるだろうけれども、終盤のドッグファイトだけで私は十分に満足したのだった。  
タグ :犬村小六

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)ガガガ文庫
2008年04月22日

石の花

石の花 上 (光文社コミック叢書“シグナル” 11 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口 尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-01-31

Amazon/楽天ブックス


石の花 中巻 (光文社コミック叢書“シグナル” 12 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口 尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-02-29

Amazon/楽天ブックス


石の花 下巻 (光文社コミック叢書“シグナル” 13 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-03-01

Amazon/楽天ブックス



シミュレーションゲームが好きなのである。
もっとも、どのくらい好きなのかといえばそれを語ったところで、「けっ、その程度の好きさ加減なのか」と嫌みの一つも言われそうな程度なのでここでは語らないが、ゲームを始める前の事前準備に一時間程度は平気でかかったボードシミュレーションゲームで遊んでいた程度は好きだった。まあ当時はそれしかなかったのだけれども。
なにしろ、畳半畳程度の薄い紙の地図の上に一センチ四方のボール紙で出来た数百個の駒を並べるのである。しかもむやみやたらと並べて良いわけではない。どこにどの駒を配置するかで勝負は決まる。ゲームを始める前から既に勝負は始まっており、強靱な精神力がなければゲームが始まった時点では既に気力は使い果たしてしまう恐ろしいゲームなのである。
さらには数十頁もあるルールブックを事前に熟読し頭の中にたたき込んでおかなければならない。そう、まさにゲームを始める時点で「オレがルールブックだ」と言っても構わない状態になっていなければゲームを始めることさえ出来ないのである。しかし、悲しいことにそんなことが出来ていたら今頃こんな生活をしているわけがなく、ルールの解釈の違いから、戦場がボードから離れ、物理的な肉弾戦へと発展しそうになったことも今では懐かしい記憶だ。
それはさておき、『チトー パルチザンの戦い』というボードシミュレーションゲームがあった。パルチザン対ドイツ軍というゲリラ戦をシミュレートした傑作ゲームだったのだけれども、ドイツ対ソ連、ドイツ対イギリス、連合軍対枢軸軍といった他のゲームと比べるとかなり地味だった。それ故に、興味はあっても結局のところ遊んだことはなかったのであるが、それが不幸の始まりだった。
「地味」という印象がこびりついてしまったのである。「パルメザン」チーズは平気なのに、「パルチザン」とくるとこのゲームのことが頭に浮かび、拒否してしまうのだ。そんなわけで、坂口尚の『石の花』も読まず嫌いで今まで通してきた。
が、今回反省の意味も込めてこの豪華版を読み通すことにした。
で、まず読み終えて、よくもここまで肯定もせず否定もせず、あるがままの世界を描ききったものだと思った。
無論、肯定する物は肯定しているし、否定するべき物は否定している。しかしそれはあくまで登場人物にそうさせているのであって、作者が表に出てそう言っているわけではない。
作者の主義主張は確かにそこにあるのだけれども、それは物語の中では目に見える形では現れていない。
というわけで、今まで目を向けないでいた自分に猛省を促したのだけれども、だからといって戦争を扱ったシミュレーションゲームを嫌いになったのかといえばそうでもない。
戦争ゲームをする視点と戦争について考える視点というのは違うのだ。他人はどうであれ、自分の場合は同じ視点で二つを扱うことは出来ない。
ゲームにする時点で物事は抽象化され、抽象化された時点で何かが失われる。
そして大抵の人間は抽象化しなければ物事を把握できないのである。
だから私は、戦争ゲームを楽しみ、そして戦争の悲惨さを描いた漫画を読んで涙する。どちらも矛盾無く存在する私自身なのである。  
タグ :坂口尚

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)光文社
2008年04月21日

「瑠璃城」殺人事件

「瑠璃城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-2)

  •  北山 猛邦

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-14

Amazon/楽天ブックス



最初の舞台は、日本最北の地に建てられた「最果ての図書館」である。「1989年 日本」となってはいるものの、現実味など全くなく図書館の外には何もない空間が広がっているだけじゃないのかと思ってしまう。
さらにだめ押しで主人公たちは何度も「生まれ変わり」を繰り返しているというのだ。
思わず目眩がしそうな展開になってくるのだけれども、幻想ミステリとして考えれば作品全体に流れる雰囲気そのものは悪くはなく、これらがどのように合理的に解釈されるのかという部分に興味が出てくる。
しかし、読み手の期待はあくまで勝手な期待であって前作と同様に、「これはそういう設定なのだ、合理的な解釈など存在しない」という作者の言葉が響き渡る。
というわけで、何処までの部分が基本設定でどこからがミステリとしての合理的な解釈がつく領域なのかという部分が曖昧だった点が不満でもあるけれども、前作と同様、首を切断した理由が素晴らしかった。
あまりにも身も蓋もない切断理由に、次作でもとんでもない理由で首を切断してくれないものかと期待をしてしまうのである。  
タグ :北山猛邦

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)講談社文庫
2008年04月18日

墓標なき墓場

墓標なき墓場 (創元推理文庫 M こ 3-1 高城高全集 1)

  •  高城 高

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-02

Amazon/楽天ブックス



今の基準でいえば、長編というよりも中編といったほうがい良いような分量だ。
いろいろなものをそぎ落としたというよりも盛りつけなかったといった感じに近いので良くいえば淡々とした雰囲気が漂っている。もう少しいろいろと盛りつけてもよかったんじゃないかとも思えるのだが、これが著者の第一長編であることを考えるとこれはこれでいいのではないかという気もしてくる。それ故にこれが唯一の長編であることが非常に残念で仕方ないのだが、無い物をねだっても仕方ない。
しかし語り口があっさりとしているのに対して、事件の方は込み入っており、意外な真相が待ち受けているのである。それ故に主人公が超人的な洞察力でもって一気に終盤を突き抜けてしまっている部分が惜しいのだが、それはまあ真相を見抜けなかった人間のひがみかもしれない。
というわけで欠点を挙げればきりがないのだが、読み終えてずっしりと響いてくる題名の意味とこの全体を流れる雰囲気の前にはそんな欠点をあげつらう気など起こらなくなってくるのだ。  
タグ :高城高

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)創元推理文庫
2008年04月17日

HAMMERED―女戦士の帰還―

HAMMERED―女戦士の帰還 (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1) (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1)

  •  エリザベス・ベア月岡 小穂

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-03-20

Amazon/楽天ブックス



もともとそれほど期待などしていなかったのに、その場の勢いで買ってしまい、買った後でちょっと後悔していたりもしたんだけれども読んでみたらこれがなかなか面白い。
もっとも、読んでも読んでもなかなか話が進展せず、二百ページぐらい読んでも二百年後に地球が滅亡するなんて気配すら感じさせなくって、ひょっとしたらオレが買った本だけ表紙カバーと中身が別物になっているんじゃないかって心配になってくるのだけれども、最近の海外SFの展開の遅さは覚悟の上なので平気だ。
むしろ、地球滅亡まで後二百年というタイムリミット、といっても二百年はちょっと長すぎて緊張感はまったくないけど、その事態を脱却するために、おりしも火星に不時着した異星人の宇宙船を解析して恒星間宇宙船を作り上げ、他の星へと目指すという展開はどことなく『宇宙戦艦ヤマト』を彷彿させる。
アニメ版はイスカンダル星から救いの手がさしのべられ、さらにエンジンの設計図まで貰ったのでちょっと違いすぎるけれども、石津嵐版の『宇宙戦艦ヤマト』では地球を救う方法を教えるから自力で来い、とメッセージが伝えられただけで、波動エンジンは不時着した宇宙船を解析して自力で作り上げたのでその部分は似ている。
さらには古代進と島大介と森雪の三角関係、というのが本当にあるのだ石津嵐版には、に対して本書でも三角関係が存在するし、中国が主人公たちに敵対する敵として存在するので、中国がガミラス星人的な役割を担っていると考えれば、失恋した島大介がガミラス星人に寝返ってヤマト内部で破壊活動を繰り広げるという石津嵐版の展開と同じようなことが次巻以降で起こっても不思議ではない気もしてくる。
とりあえず、地球の生態系を元通りにするつもりなど毛頭ないあたり、苦労してイスカンダル星にたどり着いてみれば、地球を元通りにする方法など無いから人間の方を人体改造して地球環境に適合させるしかないなどというとんでもない結論で終わった石津嵐版と似通っているので今後が楽しみだ。
もっとも、それだったら石津嵐版『宇宙戦艦ヤマト』を読めば済む話でもあるのだが。  

2008年04月16日

悪夢の五日間

悪夢の五日間

  •  フレドリック・ブラウン

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2000

Amazon

さて、フレドリック・ブラウンのミステリである。
昨日から今朝ににかけて妻と喧嘩した主人公が仲直りしようと思いながら帰宅すると妻が誘拐されていた。
唯一の手がかりはタイプライターに残された犯人からのメッセージのみ。そこには身代金の金額と二人の名前が書かれてあった。一人は妻を誘拐され、それを警察に届けたために妻を失った男の名。もう一人は犯人の要求通りにしたために妻を失わなかった男の名。そして主人公に与えられた猶予は五日間。
コーネル・ウールリッチが書いたらさぞかしサスペンスフルな物語になったのかも知れないが、この物語を書いたのはブラウンである。
サスペンス要素には重きを置かず、主人公はきわめてシステマティックに考え、そして行動する。
主人公は、犯人探しなどせずに犯人が要求した身代金の額を用意するために手持ちの資産を現金化するためにただひたすら飛び回るのである。
それのどこが面白いのかと問われるとまあ確かにそれほど面白くはないのだけれども、警察の手を借りることの出来ない身である以上、いかにして身代金を用意するかという問題に終始するのはあたりまえのことだ。
しかし、ブラウンの筆運びは軽妙でだれるところが無く意外な結末も用意されている。そして何よりも洒落たラストの一文も含めて読後感が非常に良いのである。  


Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)創元推理文庫
2008年04月15日

来月の気になる本 2008/5

『龍盤七朝 DRAGONBUSTER(1)』秋山瑞人 電撃文庫
『メグとセロン 三三〇五年の夏休み(下)』時雨沢恵一 電撃文庫
『僕たちの終末』機本伸司 ハルキ文庫
『銀の犬』光原百合 ハルキ文庫
『黒死館殺人事件』小栗虫太郎 河出文庫
『マノンの肉体』辻原登 講談社文庫
『木曜日だった男』チェスタトン 南條竹則 古典新訳文庫
『ハナシにならん!笑酔亭梅寿謎解噺(2)』田中啓文 集英社文庫
『スカーレット・ピンパーネル 紅はこべ』バロネス・オルツィ 集英社文庫
『リバース・ブラッド(2)』一柳凪 ガガガ文庫
『デカルトの密室』瀬名秀明 新潮文庫
『神と野獣の日』松本清張 角川文庫
『風前の灯! 冥王星ドーム都市』野田昌宏 創元SF文庫
『凍った太陽』高城 高 創元推理文庫
『黎明の星(上下)』J・P・ホーガン 創元SF文庫
『ひとめあなたに』新井素子 創元SF文庫
『ロスト・エコー』ジョー・R・ランズデール ハヤカワ・ミステリ文庫
『WORLDWIRED』エリザベス・ベア ハヤカワ文庫SF
『魔法塾、はじめました!』ロバート・アスプリン&ジョディ・リン・ナイ ハヤカワ文庫FT
『エア』ジェフ・ライマン 早川書房
『今日の早川さん 2』coco 早川書房
『空想東京百景』ゆずはらとしゆき 講談社BOX
『荒野』桜庭一樹 文藝春秋

秋山瑞人の新作が登場。『ミナミノミナミノ』の続きはもうあきらめた方がいいのか……あきらめた方がいいのだろうなあ。
今度は小栗虫太郎なんかを出したりして、相変わらずすごいなあ河出文庫は。
すごいといえば光文社も負けてはいない、チェスタトンの『木曜日の男』の新訳、しかも『木曜日だった男』と題名まで変えて登場。
松本清張の『神と野獣の日』が思わぬところで復刊。破滅物を好んで読んでいた時期に、次こそ読もうと思いながらも読まずに過ごしてしまったので今度は読んでみよう。
三月に出る予定だった、『風前の灯! 冥王星ドーム都市』が再度予定に登場。今度こそ頼みますよ。
J・P・ホーガンのシリーズ物はなんとか二作目も刊行となったようで、めでたしめでたし。もっとも今のところ私は読むつもりは無いけど。
久しぶりのジョー・R・ランズデールは文庫で登場。何にせよ翻訳されるだけありがたいことですが、ハップ&レナードシリーズの方も翻訳して欲しいなあ。特に何故か翻訳されなかった一作目を。
ゆずはらとしゆきの『空想東京百景』が講談社BOXから出ることとなるとは思わなかったけれども、それ以上に以外だったのが桜庭一樹の『荒野』だよなあ。まあ、少女を描くことはだいたい満足したというようなことを語っていたので出るとしたら今しかないだろうと思っていたけど、まさか本当に出るとは。しかしレーベルが変わってしまったのは残念。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)ホンの話
2008年04月14日

灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL

灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL (富士見ファンタジア文庫 132-7)


灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL (富士見ファンタジア文庫 132-7)

  •  貴子 潤一郎/

  • 販売元/出版社 富士見書房

  • 発売日 2008-02-20


Amazon/楽天ブックス



うーむ、まさか二年も待たされる羽目になるとは思わなかった。
そもそも量産出来るネタでガンガン書いて早い段階でけりをつけるつもりじゃなかったのだろうか。
こっちももそういう腹づもりでいたので、こうも長引いてしまうとなんだかなあと思ってしまうのである。
しかも、どのくらい売れているのか分からないけれども、そろそろオビのあおり文句がむなしく響き始めようとしているんじゃないだろうか。
もっとも物語そのものはつまらないというわけではないし、設定自身も丁寧に作られている。敵味方のバランスも絶妙といわざるをえないところを行ったり来たりして読む方にガンガンとストレスを与え続けてくれている。ちょっと言い過ぎか。
しかし、ここまで引っ張ってきた以上はそれなりの結末を見せてくれないと読者も納得しないだろうし、といってもそんなことは作者が悩めばいいだけの話なんだけど、なまじ短編集『眠り姫』が面白かっただけに、こんなところで停滞してもらっては困るのだよ。
  
タグ :貴子潤一郎

2008年04月11日

スターシップと俳句

スターシップと俳句 (ハヤカワ文庫 SF (580))

  •  冬川 亘

  •  ソムトウ・スチャリトクル

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1984-10

Amazon



いい加減な知識を元にして日本を舞台とした話を書いたために結果として不思議な国ニッポンとなってしまった海外の小説は数々あるけれども、中には、正確な知識を持っていながらもわざと曲解して不思議な国ニッポンを書く作家もいる。イアン・ワトソンの「銀座の恋の物語」なんかがそうで、いい加減な知識で書いてしまうよりもかえってたちが悪かったりする。
もっともたちが悪いのは外国人作家だけではなく、日本人作家の中にだって筒井康隆や都筑道夫や小林信彦や山口雅也や海猫沢めろんとかいちいち挙げていたらきりがないほどいる。
そういった中でこの本は、「曲解されたニッポン物」の最北に位置するんじゃないだろうか。
千年期戦争で米ソは壊滅、日本は奇跡的に助かったという設定の時点で既に何か邪悪な作為を感じさせるのだが、まあとにかく全編、恥と潔い死の概念のオンパレード。潔い死ってのが結局は切腹なんだけど、ここまでくるとある種の美意識さえ感じさせる。
クジラが自分たちの祖先だったということを知り、祖先殺しに恥じて集団自殺をするのだが、その死に方が素晴らしい。富士山の映像を背景にシコクというテーマパークを作って自殺するように洗脳する芝居を見せられ次々と死んでいくのである。
異形の未来世界でありながらその世界がどのような世界なのかという具体的な描写はほとんど無く、あったとしても喫茶店で六百万円の珈琲を飲んで一千万円札で支払ったなどといったぶっ飛んだ描写だったりするのだが、そんな描写もゆがんだ日本人の精神の前には些細な出来事でしかない。
作者によってゆがめられた日本人の感性は全てのページに無駄なく敷き詰められており、その内容につっこみを入れようとする気力さえ失われさせてしまうほどだ。
  

2008年04月10日

君の望む死に方

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)

  •  石持 浅海

  • 販売元/出版社 祥伝社

  • 発売日 2008-03

Amazon/楽天ブックス



初期の石持浅海は、事件が起こっても警察が介入できないシチュエーションを考案し続けてきていたのだが、途中から警察の介入を許すようになってきた。しかし、警察が介入してくるようになってきても石持浅海のミステリはどこか変なのだ。基本的に石持浅海は特異なシチュエーションを設定しその中で論理をこね回すのが好きな人なのだろう。
というわけで今回は石持浅海版『ゼロ時間へ』だ。
考えてみれば前作にあたる『扉は閉ざされたまま』も、殺人そのものは起こっているのだが殺人事件そのものは発覚しておらず、殺人から殺人事件の発覚までの間の話であって、発覚を「ゼロ時間」とするならば石持浅海版『ゼロ時間へ』なのであるが、今回は完璧に事件そのものさえも起こっていない。アガサ・クリスティが設定した、殺人の時間をゼロ時間とするシチュエーションと全く同じなのである。
しかも、クリスティは本格ミステリとしての体裁を整えるために、探偵による謎解きと犯人の指摘をするためにゼロ時間後も描きざるを得なかったのにたいして、石持浅海は最後まで殺人事件を起こさず、それでいて探偵による謎解きをもやってのけているのだ。ここまでくると凄いというよりも偏執的、いや変態だと言いたくもなる。
そんなことが出来るのも前作で特異な名探偵を作り上げていたからで、今回も彼女は暗躍する。そう、「活躍」ではなく文字通り「暗躍」するのである。
たぶん、彼女は自分の感情でさえも論理で導かなければ出すことができないのではないだろうか。そう思えて仕方がない。
しかし、真に驚くべき部分は最終章なのである。探偵が一通りの講釈をたれ、そして退場したあとで、事件の黒幕は探偵の残した言葉からとんでもない結論へとたどり着くのだ。
じつにすばらしい。  
タグ :石持浅海

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)祥伝社
2008年04月09日

裸者と裸者

裸者と裸者 上  (角川文庫 う 15-3)

  •  打海 文三

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2007-12

Amazon/楽天ブックス


裸者と裸者 下 (角川文庫 う 15-4)

  •  打海 文三

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2007-12

Amazon/楽天ブックス



「ドラゴンクエスト」というゲームの中で一番印象に残っているセリフというと、僕の場合「しんでしまうとはなにごとだ」である。
先に進みたいが故に、ろくにレベルアップもせず猪突猛進で進めてしまうという自分のゲームスタイルのために、何度も読まされるはめになったのが一番の理由だ。
で、自分のゲームスタイルはさておき、不謹慎であることも承知の上なのだが、あえてこう言いたいのだ。

「打海文三よ しんでしまうとはなにごとだ」

『裸者と裸者』『愚者と愚者』と書き続けておきながら、最終作となるはずだった『覇者と覇者』を書き終える前に打海文三は逝ってしまった。
文句をいうのはお門違いなのだが、文句の一つも言いたくなる。
このまま書き続かれていったならば、ジョージ・R・R・マーティンの<氷と炎の歌>シリーズに勝るとも劣らない物語になったに違いないと思うと悔しくて仕方がないのだ。
異世界ファンタジーではなく、近未来の日本を舞台としていながらもSFでもない。まあSFと言い切ってもいいかもしれないけれども、そんなジャンルわけなどどうでも良くなってくるくらいに面白くって、そして考えさせられる。
マーティンのように情け容赦なく登場人物を殺してしまうということはないけれど、その代わりに成長物語としての面白さがそこにはある。登場人物たちが何を考え、そしてどのように成長していくのか、ああ、彼らの成長ぶりが見たくて見たくて仕方が無くなるのだ。
それなのにもはや続きを読むことはできなくなってまった。だからこう言いたいのだ。

「打海文三よ しんでしまうとはなにごとだ」  
タグ :打海文三

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)角川文庫
2008年04月08日

オトノハコ

オトノハコ (KCデラックス)

  •  岩岡 ヒサエ

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-31

Amazon/楽天ブックス



箱の中には何が入っているのだろうか。
SF者であれば、猫と答えるんじゃないだろうか。生きているのか死んでいるのかよく分からない可哀想な猫である。
京極夏彦ファンであれば、生首と答えるだろう。こちらもまた、生きているのか死んでいるのかよく分からない可哀想な首である。
リチャード・マシスン好きならば……、いやもうこれ以上考えるのはよそう。SFファンやミステリファンの考える箱の中味はほとんど無条件に嫌な物ばかりである。
しかし、嫌な物しか思いつかない自分もどうかと思うのだけども、だからこそ、こういう作品に出合ったときに非常にさわやかで新鮮な驚きを味合うことが出来るので、嫌な物しか思いつかない自分もそんなに悪いわけではないのだなと思うのである。
まあそれはともかく、岩岡ヒサエの考える箱の中には音が詰まっていたのである。

空っぽの箱の中には音が詰まっている。

ああ、自分の中のどす黒い何かが全て洗い流されていくような爽やかさだ。
音の表現としての新味こそないけれども、岩岡ヒサエの描く小さなキャラクターたちがいろいろと悩みながらも健気にいや、健気というよりもけっこうしぶとく成長していく様を見るのは心地よい。  
タグ :岩岡ヒサエ

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(1)漫画
2008年04月07日

あなたに不利な証拠として

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫 ト 5-1)

  •  ローリー・リン・ドラモンド駒月 雅子

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-03

Amazon/楽天ブックス



読んでみればこれはF・X・トゥールじゃないか。
いやトゥールは既に亡くなっているのでローリー・リン・ドラモンドはF・X・トゥールじゃないことはわかっているけど、F・X・トゥールが書いた『ミリオンダラー・ベイビー』の警察版だよねえ、これは。
トゥールよりも技巧的で突き放しているけれども、トゥールと同じ視線が感じられる。同じ眼を持っているのだろう。
というわけで、ローリー・リン・ドラモンドが描いた世界は私が視ることのできない視線で描かれており、それはそれで素晴らしいのだが、ミステリとして面白いかどうかというのは別問題だ。
トゥールは物語として描いていたのに対してローリー・リン・ドラモンドは物語としては描いていない。ただありのままの現実を、わざわざ効果的な手段を選んで突きつけるだけだ。
いわゆるミステリとしての面白さは何も無いことは知った上で読んだのでそのあたりは全然問題がなかったし、作者の突き放し具合がはよかったんだけど、最後の話になって突き放しきれなくなってしまったのが残念といえば残念。
  

2008年04月04日

マンハッタン・オプ

マンハッタン・オプI (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3) (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3)

  •  矢作 俊彦

  • 販売元/出版社 ソフトバンククリエイティブ

  • 発売日 2007-10-18

Amazon/楽天ブックス



『海から来たサムライ』を大幅改稿した『サムライ・ノングラータ』といい、著者の理想するところに最も近い形態となった『鉄塔 武蔵野線』といい、ソフトバンク文庫はなかなか素晴らしい仕事をしてくれているのだが、ここへもう一つ加わることとなったのが<マンハッタン・オプ>シリーズだ。
複数の出版社から出ていたものを再編集し、谷口ジローの挿絵もあわせて収録した全四巻。
一編が20ページにも満たない分量の中で一歩間違えればレイモンド・チャンドラーのパロディと化すところをすれすれで踏みとどまった、簡潔でそして粋な文章はぼれぼれするくらいに素晴らしい。そしてその上でさらにプロットもひねってあって、意外な真相や粋なストーリ展開まで加わっているのである。やたらと分厚い海外の小説を読んだ後だと、こういった無駄をそり落とした簡素な、それでいて洗練された文章を読むとなんだかすがすがしい気分になってくる。
さらには全話に谷口ジローの挿絵が入っているので、もはや贅沢この上ない仕上がり。今まで絶版だったのだがここにこうしてめでたく復刊したことをありがたく思おうではないか。
  
タグ :矢作俊彦

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)SB文庫
2008年04月03日

シャルビューク夫人の肖像

シャルビューク夫人の肖像 (ランダムハウス講談社 フ 8-1)

  •  ジェフリー フォード田中一江

  • 販売元/出版社 ランダムハウス講談社

  • 発売日 2008-03-01

Amazon/楽天ブックス



はたして描く相手の顔を見ずして、声と相手の語る物語からイメージだけで肖像画を描くことができるのだろうか。
白い果実』では観相学なるものを担ぎ出していたり、「アイスクリームの帝国」では共感覚を題材にしていたりするので、作者自身はそれほど突拍子もないことではないと思っているのかも知れない。
まあそのあたりはともかくとして、シャルビューク夫人の語る物語は面白い。結晶言語学なる怪しげな学問から始まり、はたしてこの物語はどんな場所に着地するのかドキドキしながら読みふけったのである。
問題は、途中まではどのような物語を期待していたとしても、テンポのよい短い章立ても合い重なって楽しめるのだが、終盤になって物語は曖昧さを捨て、一方向へと傾いていってしまうことだ。
無論全ての期待するところを満足させる物語を作者に期待するのはあまりにも無茶であることは承知の上なのだが、全ての謎が実に気持ちよく合理的に解けてしまうあたりが、もう少し曖昧なままでもよかったんじゃないかと思わせてしまう。
ああ、読者というのは我が儘な存在である。