2008年05月16日

天体の回転について

天体の回転について (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

  •  小林 泰三

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-03

Amazon/楽天ブックス



Jコレクションにおいては前作にあたる『海を見る人』と比べると小林泰三の個性が出過ぎてしまったという気がする。
ようするにアレと同じ系統の物語を期待するとがっかりしてしまうのだ。
逆に、いつもの執拗なまでの論理のこねくり回しを楽しみにしている人には満足の出来なのだが、私は前者だったので少しがっかり。
ブライ王の「王」にキングとルビを振ったり、MF銃なんて代物が登場したりとアニメネタを盛り込んであるので、こっそり牧野修が代作したのではないかと思ったりもする「灰色の車輪」はきれいに書けばしんみりとした作品に仕上がっただろうけれども、全然しんみりともせず、後味の悪い作品に仕上がっているあたりがいかにも小林泰三だ。
そもそも表題作からして、こりゃ小説というよりも科学解説記事に近く、なんでこんなものを書いたのか理解が出来ない。まあ、こういう物を一度書きたかったんだろうなあ。
「盗まれた昨日」は『忌憶』とネタがかぶっているので新鮮味はなかったけれども、長期記憶を外部メモリとして保持するという設定から発展させた論理が素晴らしい。
  
タグ :小林泰三

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2008年05月15日

来月の気になる本 2008/6

『日本沈没 第二部(上下)』小松左京/谷甲州 小学館文庫
『ガダラの豚(上下)』中島らも 双葉文庫
『冒険小説論』北上次郎 双葉文庫
『耳をふさいで夜を走る』石持浅海 徳間書店
『回送電車』堀江敏幸 中公文庫
『愚者と愚者(上下)』打海文三 角川文庫
『血みどろ砂絵 なめくじ長屋捕物さわぎ』都筑道夫 角川文庫
『明治開化 安吾捕物帖』坂口安吾 角川文庫
『ひげのある男たち』結城昌治 創元推理文庫
『高城高全集2 凍った太陽』高城高 創元推理文庫
『氷』アンナ・カヴァン バジリコ
『白昼堂々』結城昌治 光文社文庫
『ポドロ島』L・P・ハートリー 河出書房新社
『日本SF全集1 1957-1971』日下三蔵編 出版芸術社
『ボルヘスと不死のオランウータン(仮)』ルイス・フェルナンド・ベリッシモ 扶桑社ミステリー
『緑のヴェール』ジェフリー・フォード 国書刊行会
『遠すぎた星 老人と宇宙2』ジョン・スコルジー ハヤカワSF
『野獣の都』マイクル・ムアコック ハヤカワSF
『楽園の日々』アーサー・C・クラーク ハヤカワSF
『晴れた日は、お隣さんと。』福田栄一 MF文庫

『日本沈没 第二部』が早くも文庫化。それにしても最近は文庫化されるのが早くなったなあ。
早いといえば打海文三の『愚者と愚者』も文庫化されます。本当は三作目の『覇者と覇者』の刊行に合わせて文庫化される予定だったようなんだけど、ああ……。
しかし、来月の角川文庫のラインナップはなんだか復刊ブームといった感じで都筑道夫や坂口安吾、半村良や高木彬光、横溝正史まで復刊。横溝正史の『髑髏検校』なんてこの間復刊したばかりだし、高木彬光の『大東京四谷怪談』なんて墨野隴人シリーズの三作目だよ。いきなり三作目ってのも凄いよなあ。
凄いといえば結城昌治の復刊も凄い。来月は二作も復刊で、今まで未読だった身としてはうれしい限りだけれども、一体どうなっているんだろうか。
バジリコからはいよいよアンナ・カヴァンの『氷』が復刊。しかしなあ、一度読もうと思って手に取ったはいいけれども読み切れる自身がなくってあきらめた過去があるからなあ。今回はいけそうかどうか不安。
『日本SF全集』もラインナップも発表されてようやく動き出したみたいなのでうれしい限りですが、今日泊亜蘭は「カシオペヤの女」でしたか。うーん、やっぱりそうだろうなあ。
国書刊行会は、いよいよ三作目が登場。もっとも確実に出るとは限らないのだけれども、ようやくこれで積読のままにしてある『記憶の書』が安心して読めます。
L・P・ハートリーの『ポドロ島』は「豪州から来たお客」が収録されていないのがちょっと残念。まあ欲張っても仕方ないのだけれども。
  

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2008年05月14日

ぼくたちのアニメ史

ぼくたちのアニメ史 (岩波ジュニア新書 587)

  •  辻 真先

  • 販売元/出版社 岩波書店

  • 発売日 2008-02

Amazon/楽天ブックス



辻真先のアニメ史といえば、過去に『TVアニメ青春記』があり、おまけに岩波ジュニア新書というレーベルなのでそれほど濃い内容ではないだろうと高をくくっていたら驚いた。
いや、軽くみていた自分に猛省を促し、申し訳ありませんでしたと謝りたくなった。
確かに『TVアニメ青春記』と比べれば中身は薄いし資料的な価値も乏しいのだが、だからといってけっして手を抜いているわけではない。さすがは『デビルマン』は当たり前として『一休さん』や『魔女っ子メグちゃん』においてさえトラウマになりそうな酷い話、もとい、厳しい現実を描いた辻真先である。
『TVアニメ青春記』と重なっている部分もあるのだけれども、予想以上に重なりが少なく、『TVアニメ青春記』で語られた以降のアニメにもかなり言及されているのでお得感も倍増なのだ。
で、ついつい比較してしまうのが小松左京の『SF魂』と『小松左京自伝 実存を求めて』だ。
こちらの方は聞き語りというせいもあってか内容に重複が多く、しかも小松左京自身からも往年のパワーが消えてしまっている。辻真先の方が一歳年下とはいえ、あまりの違いに愕然としてしまい、自伝など書いている暇があったらもっと他にやることがあるだろうと言いたくもなるのだが、停滞していた小松左京がようやく動き始めたのだと思うことにしよう。  
タグ :辻真先

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2008年05月13日

時果つるところ

超原子爆弾の爆発によって一つの都市がまるごと百万年後に吹っ飛ばされてしまうという設定は非常にそそるものがあった。
初めてこの話の存在を知ったときに、読んでみたいものだと思ったんだけれども、残念ながらこの話が収められた本はその当時であっても入手困難な状態で、文庫化されないものかとひたすら待ち続ける日々だった。
しかしいくら待っても文庫化される気配すらない。もっとも気配があったらそれを感じることができたのかといわれればそんなことなど出来るはずもなかったけれども、そのおかげで文庫化されていた『虚空の遺産』の方も読む気が起きなくって、読んでみようかと思い始めたときにはこちらの方も入手困難になってしまっていた。
まあ、さすがに文庫化されていたので、それほど苦労せずに読むことはできたんだけれども、『時果つるところ』の方はなかなか読むことができない状態だった。
で、まあなんとか入手することが出来て読んだんだけれども、期待感が高すぎてしまったせいか、うーむ、悪くはないけど良くもないといったよくあるパターンになってしまった。
都市ごと吹っ飛ばされて、廃虚と化したドーム都市を発見し、そこで無線機を動かして誰か応答してくれないものかと通信するところまではまあいい。しかし問題はその後だ。
通信を受信して飛んできたのはなんと遙か宇宙の彼方の異星人たちだったというあたりから全体のトーンが変わってくる。いやまさか地球上のどこかから応答が来るかと思ったら遙か宇宙の彼方から応答に答えてやってくるとは思わなかったよ。
しかし、まあハッピーエンドで終わる結末はそんなに悪くないのもまた事実なんだけど、『虚空の遺産』の身も蓋もない虚無感的なアンハッピーエンドの方が個人的にはしっくりとくるなあ。多分もっと若いときに読んでいたら『時果つるところ』の方がよかったと思ったかも知れないけれど。
  

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2008年05月12日

ロボット宇宙船

ロボット宇宙船 (1968年) (Q-TブックスSF)

  •  A・E・ヴァン・ヴォークト

  • 販売元/出版社 久保書店

  • 発売日 1968

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原題が『The Mating Cry』なのでそのまま翻訳しては使えない事は理解できるんだけれども、その変わりになったのが『ロボット宇宙船』とは……。
いや、何ともインパクトのない題名だなどというのは読む前の話で、読み終えてみると、見事なまでにネタバレの題名なのである。
もっとも、ヴァン・ヴォクトの書いた話なのでちょっとやそっとのことではネタバレなど起こしようがないというかネタバレをしようと思うととてつもない労力を強いられることになるので『ロボット宇宙船』などというネタバレの題名をつけられてもこの物語の破壊力は微塵もしないのである
まあ、ヴァン・ヴォクトの他の話と比べると数段落ちる話ではあるが、それでも終盤における登場人物たちの仮面が次々とはがれていくシーンは圧巻である。もちろんヴァン・ヴォクトの世界なので文字通り仮面が剥がれるのである。
もう一つ特筆する点は、さすがは『The Mating Cry』とつけただけあってベッドシーンがやたらと入る点だ。無論、書かれた時代が時代なのであっさりとしているのだがヴァン・ヴォクトがこんな話を書いていたとは思わなかったよ。  


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2008年05月09日

地球最後の砦

地球最後の砦 (ハヤカワ文庫 SF 28)

  •  A・E・ヴァン・ヴォクト

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1971-06

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マイクル・スワンウィックの『グリュフォンの卵』に収められていた「時の軍勢」がヴァン・ヴォクトっぽいなあと思っていたら『地球最後の砦』のオマージュだという話を知って、探し出して読んでみた。
おお、これは確かにそうだ。うれしくなるほどスワンウィックはヴァン・ヴォクトを真似している。
それにしてもヴァン・ヴォクトって人は自分のことを神か何かそれに近い存在だと思っていたんじゃないのだろうか。
ここまで無茶で破綻しきっている物語を圧倒的なパワーで最後まで押し切ってしまうのは普通の人間じゃ出来っこない。まあ大抵は書き上げても恥ずかしくって世に出せないだろう。
後にも先にもこんな芸当が出来て、そしてそれが許されるのはヴァン・ヴォクトだけなような気もする。いやちょっと言い過ぎか。
しかし登場する人物のどいつもこいつも超人的な能力を発揮し、というか凡人として登場したはずの人間ですら物語が進むと驚くべき能力を発揮するのだから呆れて物も言えないのだが、何よりもラストの一文が凄まじすぎる。

可哀相に、何も知らないスーパーマン。

超人ですら「可哀想」といわれる扱いなのである。ヴァン・ヴォクトは自分のことを神か何かそれに近い存在だと思っていたに違いない。  

2008年05月08日

縹渺譚

縹渺譚 (1977年) (ハヤカワ文庫―JA)

  •  今日泊 亜蘭

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1977-01

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たまに、ひょっとしたらこの人は死なないんじゃないかと思ってしまう人がいる。
山田風太郎がそんな感じだったし、アーサー・C・クラークもそんな感じだった。不謹慎な言い方になるのだが、もうそろそろ死んでしまうんじゃないかというような雰囲気を漂わせておきながら、飄々として生き続けている人たちなのである。
そういう雰囲気を漂わせている人が亡くなった場合、不思議と悲しくはならない。
で、今日泊亜蘭も僕にとってはそんな一人なのである。
それはともかくとして、困ったことにこの人は、なかなか本を書いてくれない。
とくに、三部作の構想をしておきながら二作で止まってしまうのである。
<根岸物語>シリーズも「瀧川鐘音無」と「新版黄鳥墳」で止まったままだし、『光の塔』とその続編『我が月は緑』も三作目の構想があるといっておきながらいつまでたっても続きがでない。
そして『縹渺譚』も、あとがきで三部作を構成すると書いておきながら、三作目を出さないのである。
ある意味、完結させるのを良しとしない性格なのだろうか。しかし、今もおそらく飄々と生き続けていること、そしてこの人は死なないんじゃないかと思えて仕方ないことを考えると、わざと書かないで読者を焦らしているんじゃないのかと思ってしまう。
まあそれはともかく、こういう文章に触れると、ああ日本人として生まれてきてよかったなあと実感するのだ。何よりもこの本には日本語のおもしろさと美しさが詰まっている。  

タグ :今日泊亜蘭

2008年05月07日

SCARDOWN―軌道上の戦い―

SCARDOWN―軌道上の戦い― [サイボーグ士官ジェニー・ケイシー2] (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-2 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 2)

  •  エリザベス ベア前嶋 重機月岡 小穂

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-04-09

Amazon/楽天ブックス



前巻と同様、相変わらずあらすじが先走ってしまっているのはどうかと思うわけでとにかく話が進まない。半分近く読み進めても中国側の熾烈な攻撃は起こらないのである。
もっともこれはあらすじに影響されて読んでしまった場合のことで、そんなもの気にせず読んだ場合はどうかといえば、やっぱり展開が遅い。前巻で行方知れずとなった人物がどうなったかなんてかなり後にならなければ判明されず、前巻の終わりで主人公が船に乗り込んだと思いきや、いつのまにか地球に戻ってきているし、予想外の展開が多い。
主人公のライバルになりそうな人物はライバルになる以前に危うく物語から退場しかけるし、中国側の描写も登場するけれども、中国側がとんでもない事をしてくる割には中国側の視点人物はいい人なので、落差が激しいし、主人公が憎んでいる人物は終盤でいきなりかっこいい見せ場を作ったりする。
というわけで、逆に考えれば予想を裏切る展開の応酬というわけであり、これほど意外性に富んだ物語というのも近年まれにみる存在だとも言える。まあどんな物語でも楽しもうと思えば、いくらでも楽しむための読み方というのあるのだ。
  

2008年05月02日

ライノクス殺人事件

ライノクス殺人事件 (創元推理文庫 M マ 8-3)

  •  フィリップ・マクドナルド

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-03-24

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あまり過剰な期待などせずに読めばけっこう楽しめる作品なので、文庫という形態で出たのはじつにありがたい。
「結末」から始まって最後が「発端」で終わるとくるとついつい過剰な期待をしがちなんだけれども、構成そのものにはあっと驚く仕掛けがしてあるわけではない。
しかし、だからといって単にやってみたかったからやってみたというようなレベルの物でもなく、この結末を効果的に生かすためだったらこのようにするしかなかっただろうなあという代物なので、読み終えた後に冒頭の「結末」を思い出して思わずニヤリとしてしまうのだ。
死人が出るのにそれほど悲壮感というか読後感は悪くなく、かといって不真面目でもなく、どちらかといえばコンゲーム小説を読んでいるような感じに近い。
とくに後半、一難去ってまた一難の状況において、ライノクス社の経営陣がそれを解決するための場面は読んでいて爽快。なによりも最後に決め手が知力ではなく腕力に訴える点が素晴らしい。知力で勝負ではなく殴り合いで決着をつけるのだ。  

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2008年05月01日

SFはこれを読め!

SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書 81)

  •  谷岡 一郎

  • 販売元/出版社 筑摩書房

  • 発売日 2008-04

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新書サイズなのでそれほど期待はしていなかったんだけども、読んでみたらやっぱりその通りの内容だった。
海外作品が大半を占めてしまっていて国内の作品が少なく、採りあげられた海外作品に関してもその選択に偏りがあったりするのは、本書で取り扱っているテーマ分類ががちょっと変わった視点のものだったりするので仕方ないけれども、もう少し中身が濃くってもよかったような気もする。
『SFはこれを読め!』と挑戦的なタイトルなので読む方もそれなりの気合いを入れて読みがちなんだけれども、それはさておき、本書で採り上げるのはサイエンス・フィクションとしてのSFだけで、スペース・ファンタジーやスペキュレイティブ・フィクションは扱わないと言っておきながら、その境界線が曖昧なままだったりするのはちょっとまずいんじゃないのかな。
ジョー・ホールドマンの『終わりなき平和』が『終わりなき戦争』の続編と言ってしまっているあたりは、まあテーマ上の続編だとホールドマン自身も言っているので厳密には間違ってはいないけど、普通は続編という扱いはしないだろうから、本当に読んでいるのかお前、とつっこみを入れたくもなった。しかし一番大笑いしたのは、サイバーパンクを「サイバーパンクと呼ばれるアクションもの」と言い切ってしまっていた部分だ。この文章をブルース・スターリングが目にしたら、血の涙を流しながら激怒するんじゃないのかな。
というわけで、人によってこうも見方が変わるものだと思わず感心してしまった。そういう意味では実にワンダーにあふれた一冊だったよ。  
タグ :谷岡一郎

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2008年04月30日

神州魔法陣

神州魔法陣 (1981年)

  •  都筑 道夫

  • 販売元/出版社 桃源社

  • 発売日 1981-01

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振り返ってみると都筑道夫の本は意外と復刊されている。
創元推理文庫からは<退職刑事>シリーズと『誘拐作戦』、扶桑社文庫では『なめくじに聞いてみろ』、ちくま文庫からは『都筑道夫恐怖短篇集成』が三巻、本の雑誌社からは『都筑道夫少年小説コレクション』全六巻、そして光文社文庫は<なめくじ長屋>シリーズと『都筑道夫コレクション』の全十巻。
初期のトリッキーなミステリは網羅されているし、『都筑道夫少年小説コレクション』は入手困難だった作品と単行本未収録作品も多数収録と垂涎のコレクションだ。
というわけで今の出版状況を考えると、都筑道夫の復刊数に関してはまあ妥当なところなんじゃないのかと思うのだが、そこはファンの我が儘さで、時代物がもう少し復刊されてもいいんじゃないのかと思ったりもしている。
『神州魔法陣』などは桃源社で出た後、富士見時代小説文庫で文庫化されたけれども、やはり文庫化されたのがちょっとマイナーなレーベルだったせいか、埋もれてしまったままだ。もっとも、全著作のなかで最長の長編なので文庫化するにしても二分冊するしかなく、分量的な面でも不遇な扱いを受けていたという可能性も高い。
しかし、伝奇小説というのは長くなければ面白くないのだ。
いや、面白いからこそ長くなるというべきか。
この本も長さに比例する形で面白い……といいたいところだけれども、まあ……ちょっとそこまで言い切れないところが残念だ。
平賀源内が悪役というのはちょっと数少ない設定だろうし、独楽を自在に操る独楽使いのこそ泥や、やたらと腕の立つ謎の素浪人、アタックアンドカウンターアタックの物語といい、どこをどう切りとっても都筑道夫らしさにあふれていて、読んでいて楽しいのだけれども、手放しで楽しいのは江戸のまちを舞台とする第一部までだ。東海道を通って京都へと向かう第二部になると失速する。
主人公が移動し始めると個々の展開が断片的になり敵の攻撃がワンパターン化してくるのである。もっとも敵の攻撃のワンパターン化には理由があって、終盤にその理由が明らかとなるのでそれはそれで驚かされ、そして納得するのだが、だからといってそれまでの残念さが帳消しとなるとは限らないのである。
だからといって、第二部がつまらないというわけでは決してないのだけれども、都筑道夫の作品は、主人公があまり動き回らない方が面白くなるのではないだろうかと思ったりもする。  

タグ :都筑道夫

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2008年04月29日

四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1)

  •  森見 登美彦

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2008-03-25

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森見登美彦という人は二作目でこんなにも濃厚な話を書いていたのかと思うと頭が下がる思いだ。
とにかく主人公がのたまう自虐的なセリフが私の心に突き刺さるいや、染み渡るのである。
無論、主人公と同じような学生生活を送ってきたというわけではないし、それに近い人生を送ってきたわけでもなく、かなりかけ離れた人生を送ってきたけれども、だからといって勝ち組だったのかといえば勝ち組からはかけ離れて負け組に近いし、上下関係で見れば要するに主人公と同じレベルにいたということである。
だからこそ心に染み渡るのだ、主人公のセリフが。
四つの話がそれぞれ入学したての主人公が取った行動によって起こった人生の分岐後の話であり、大きく変化していながらも大局的な視点で見れば小さな変化でありそして結末は同じという部分が素晴らしい。
ここまで矮小的かつ雄大な平行世界物の物語も珍しいのではないだろうか。特に四話目における無限に広がる四畳半世界はその極地である。四畳半という小さな空間が無限に繋がるのだ。矮小でありながら巨大な空間なのである。  
タグ :森見登美彦

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2008年04月28日

弥勒の掌

弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)

  •  我孫子 武丸

  • 販売元/出版社 文藝春秋

  • 発売日 2008-03-07

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うーむ、実に変な話だった。
読み終えて、さすがは『殺戮にいたる病』を書いた作者だけのことはあるなあとひたすら感心してしまったよ。
『殺戮にいたる病』は「無責任社会派」などと言われたりしたのだけれども、この本も似たような感じだよなあ。
とにかく薄い本なので、複雑な事件などは起こらない。いたってシンプルで、それ故にどうでもいいような事件というか、謎そのものにあまり魅力が感じられないところがちょっと難点かも。しかし、どうでもいい謎などあるわけもなく、何かしら作者が企んでいるわけで、この物語がどんな地点へと着地するのだろうかと気になりながら読み進めるのだが、なかなか着地地点が見えない。しかしあまりにも見えなさすぎるので、もうどうなってもいいやという気分になってきたあたりの残り10ページほどで愕然とする。
いやはや、まあちょっとうまく出来すぎ何じゃないかと思う部分もあるけれども、一気に謎が解決してそして何よりも驚くのは身も蓋もないというか、なんとも無責任な結末の付け方なのだ。
うーむ、この酷い結末に思わず感心してしまったのである。  
タグ :我孫子武丸

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2008年04月25日

検死審問―インクエスト

検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)

  •  パーシヴァル・ワイルド

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-02

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なんだかんだいっていろいろな本が復刊されるようになった。
その分だけ出版点数が増えていればいいのだけれども、全体の数が変わらないのであればそれだけ新刊が少なくなってきているというわけで、喜ぶべきなのかそれとも憂うべきなのか微妙なところで、特に東京創元社がここまで過去の作品を復刊し続けている有様は心配にもなってくる。
まあそれはともかく実に変な話だった。いや変な話というのは悪い意味ではない。全編に流れるユーモアは、新訳というおかげもあるかも知れないが、いま読んでも全然色あせていなくて楽しめるし、事件の真相はといえば、さりげない伏線と審問記録という体裁の巧妙な作りによってうまく隠され最後まで楽しむことが出来る。
全編全てにおいて無駄がないというべきか、分量的にはコンパクトにまとまっていながらも読み終えて十分な満足感を得ることが出来るという点はさすがだと言わざるを得ない。ミステリとしても、ミステリ以外の小説としても楽しめるのだ。
ああ、続編が楽しみである。  

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2008年04月24日

日の砦

日の砦 (講談社文庫 く 4-4)

  •  黒井 千次

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-14

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特に何か特別なことが起こるわけでもなく、ごく当たり前の日常が描かれているのだけれども、そこに描かれている日常は安定した生活であるのに何故か不安定な状態として描かれ、読んでいてこちらまで不安になってくる。
例えば、近所に住む老女が自宅の玄関の鍵をを開けようと四苦八苦しているので手伝おうとしたら鍵が合わない、という話がある。そして老女が持って出たのはこの鍵だけだという。合わない鍵でなぜ玄関の扉が閉まっているのか不思議なのだが理由は一緒に住む老女の娘が用心のためにオートロックにしたからである。
そして娘は夜にならなければ帰ってこない。ほっとくわけには行かないので自分の家に連れてくるのだが、主人公たちは、このまま自分の家に居座られてしまったらいやだなあなどと思ったりもする。困っている人をほっとけないけれども必ずしも善人ではない主人公たち。
夜になって老女の娘が帰ってきたので、老女がこんな時間まで外にいた理由を説明をしてあげようと老女と一緒に家まで行くのだが、老女はそそくさとチャイムをならし、半分ほど開いた扉からするりと家の中に入ってしまう。そして玄関の鍵はカチリとしめられ、誰も出ては来ない。主人公はその場に一人取り残されるのである。
その他に、家が老朽化してきたので立て直そうという話がある。
家族の会話でその話が出た次の日から、勝手口の扉が開かなくなったり、床がふわふわしているような感じがしてきたり、真夜中に何か大きい物がドシンと落ちる物音がしたりする。そしてその話の題名は「家の声」。
なにやらオカルティックな方向へと進んでいくのだが、超常現象などは起こらない。あくまで普通の日常が描かれるままなのである。しかし不安な気分は残ったままだ。
最終話では、結婚して外へ出ていった長男夫婦から、今からそっちに行ってもいいかという電話がかかってくる。いつもなら少なくとも前日には連絡を入れてから来るのに、何かあったのだろうかと主人公は考える。もちろん読者も何かが起こることを期待する。しかし、何があったのかは描かれないまま物語は終わるのである。
そして何があったのかわからないままという、もやもやとした得体の知れぬ不安感が頭の中に漂ったままの状態で本を置かなければならないのだ。  
タグ :黒井千次

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