2008年04月16日

悪夢の五日間

悪夢の五日間

  •  フレドリック・ブラウン

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2000

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さて、フレドリック・ブラウンのミステリである。
昨日から今朝ににかけて妻と喧嘩した主人公が仲直りしようと思いながら帰宅すると妻が誘拐されていた。
唯一の手がかりはタイプライターに残された犯人からのメッセージのみ。そこには身代金の金額と二人の名前が書かれてあった。一人は妻を誘拐され、それを警察に届けたために妻を失った男の名。もう一人は犯人の要求通りにしたために妻を失わなかった男の名。そして主人公に与えられた猶予は五日間。
コーネル・ウールリッチが書いたらさぞかしサスペンスフルな物語になったのかも知れないが、この物語を書いたのはブラウンである。
サスペンス要素には重きを置かず、主人公はきわめてシステマティックに考え、そして行動する。
主人公は、犯人探しなどせずに犯人が要求した身代金の額を用意するために手持ちの資産を現金化するためにただひたすら飛び回るのである。
それのどこが面白いのかと問われるとまあ確かにそれほど面白くはないのだけれども、警察の手を借りることの出来ない身である以上、いかにして身代金を用意するかという問題に終始するのはあたりまえのことだ。
しかし、ブラウンの筆運びは軽妙でだれるところが無く意外な結末も用意されている。そして何よりも洒落たラストの一文も含めて読後感が非常に良いのである。  


Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)創元推理文庫
2008年04月15日

来月の気になる本 2008/5

『龍盤七朝 DRAGONBUSTER(1)』秋山瑞人 電撃文庫
『メグとセロン 三三〇五年の夏休み(下)』時雨沢恵一 電撃文庫
『僕たちの終末』機本伸司 ハルキ文庫
『銀の犬』光原百合 ハルキ文庫
『黒死館殺人事件』小栗虫太郎 河出文庫
『マノンの肉体』辻原登 講談社文庫
『木曜日だった男』チェスタトン 南條竹則 古典新訳文庫
『ハナシにならん!笑酔亭梅寿謎解噺(2)』田中啓文 集英社文庫
『スカーレット・ピンパーネル 紅はこべ』バロネス・オルツィ 集英社文庫
『リバース・ブラッド(2)』一柳凪 ガガガ文庫
『デカルトの密室』瀬名秀明 新潮文庫
『神と野獣の日』松本清張 角川文庫
『風前の灯! 冥王星ドーム都市』野田昌宏 創元SF文庫
『凍った太陽』高城 高 創元推理文庫
『黎明の星(上下)』J・P・ホーガン 創元SF文庫
『ひとめあなたに』新井素子 創元SF文庫
『ロスト・エコー』ジョー・R・ランズデール ハヤカワ・ミステリ文庫
『WORLDWIRED』エリザベス・ベア ハヤカワ文庫SF
『魔法塾、はじめました!』ロバート・アスプリン&ジョディ・リン・ナイ ハヤカワ文庫FT
『エア』ジェフ・ライマン 早川書房
『今日の早川さん 2』coco 早川書房
『空想東京百景』ゆずはらとしゆき 講談社BOX
『荒野』桜庭一樹 文藝春秋

秋山瑞人の新作が登場。『ミナミノミナミノ』の続きはもうあきらめた方がいいのか……あきらめた方がいいのだろうなあ。
今度は小栗虫太郎なんかを出したりして、相変わらずすごいなあ河出文庫は。
すごいといえば光文社も負けてはいない、チェスタトンの『木曜日の男』の新訳、しかも『木曜日だった男』と題名まで変えて登場。
松本清張の『神と野獣の日』が思わぬところで復刊。破滅物を好んで読んでいた時期に、次こそ読もうと思いながらも読まずに過ごしてしまったので今度は読んでみよう。
三月に出る予定だった、『風前の灯! 冥王星ドーム都市』が再度予定に登場。今度こそ頼みますよ。
J・P・ホーガンのシリーズ物はなんとか二作目も刊行となったようで、めでたしめでたし。もっとも今のところ私は読むつもりは無いけど。
久しぶりのジョー・R・ランズデールは文庫で登場。何にせよ翻訳されるだけありがたいことですが、ハップ&レナードシリーズの方も翻訳して欲しいなあ。特に何故か翻訳されなかった一作目を。
ゆずはらとしゆきの『空想東京百景』が講談社BOXから出ることとなるとは思わなかったけれども、それ以上に以外だったのが桜庭一樹の『荒野』だよなあ。まあ、少女を描くことはだいたい満足したというようなことを語っていたので出るとしたら今しかないだろうと思っていたけど、まさか本当に出るとは。しかしレーベルが変わってしまったのは残念。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)ホンの話
2008年04月14日

灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL

灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL (富士見ファンタジア文庫 132-7)


灼熱のエスクード―MATERIAL GIRL (富士見ファンタジア文庫 132-7)

  •  貴子 潤一郎/

  • 販売元/出版社 富士見書房

  • 発売日 2008-02-20


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うーむ、まさか二年も待たされる羽目になるとは思わなかった。
そもそも量産出来るネタでガンガン書いて早い段階でけりをつけるつもりじゃなかったのだろうか。
こっちももそういう腹づもりでいたので、こうも長引いてしまうとなんだかなあと思ってしまうのである。
しかも、どのくらい売れているのか分からないけれども、そろそろオビのあおり文句がむなしく響き始めようとしているんじゃないだろうか。
もっとも物語そのものはつまらないというわけではないし、設定自身も丁寧に作られている。敵味方のバランスも絶妙といわざるをえないところを行ったり来たりして読む方にガンガンとストレスを与え続けてくれている。ちょっと言い過ぎか。
しかし、ここまで引っ張ってきた以上はそれなりの結末を見せてくれないと読者も納得しないだろうし、といってもそんなことは作者が悩めばいいだけの話なんだけど、なまじ短編集『眠り姫』が面白かっただけに、こんなところで停滞してもらっては困るのだよ。
  
タグ :貴子潤一郎

2008年04月11日

スターシップと俳句

スターシップと俳句 (ハヤカワ文庫 SF (580))

  •  冬川 亘

  •  ソムトウ・スチャリトクル

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1984-10

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いい加減な知識を元にして日本を舞台とした話を書いたために結果として不思議な国ニッポンとなってしまった海外の小説は数々あるけれども、中には、正確な知識を持っていながらもわざと曲解して不思議な国ニッポンを書く作家もいる。イアン・ワトソンの「銀座の恋の物語」なんかがそうで、いい加減な知識で書いてしまうよりもかえってたちが悪かったりする。
もっともたちが悪いのは外国人作家だけではなく、日本人作家の中にだって筒井康隆や都筑道夫や小林信彦や山口雅也や海猫沢めろんとかいちいち挙げていたらきりがないほどいる。
そういった中でこの本は、「曲解されたニッポン物」の最北に位置するんじゃないだろうか。
千年期戦争で米ソは壊滅、日本は奇跡的に助かったという設定の時点で既に何か邪悪な作為を感じさせるのだが、まあとにかく全編、恥と潔い死の概念のオンパレード。潔い死ってのが結局は切腹なんだけど、ここまでくるとある種の美意識さえ感じさせる。
クジラが自分たちの祖先だったということを知り、祖先殺しに恥じて集団自殺をするのだが、その死に方が素晴らしい。富士山の映像を背景にシコクというテーマパークを作って自殺するように洗脳する芝居を見せられ次々と死んでいくのである。
異形の未来世界でありながらその世界がどのような世界なのかという具体的な描写はほとんど無く、あったとしても喫茶店で六百万円の珈琲を飲んで一千万円札で支払ったなどといったぶっ飛んだ描写だったりするのだが、そんな描写もゆがんだ日本人の精神の前には些細な出来事でしかない。
作者によってゆがめられた日本人の感性は全てのページに無駄なく敷き詰められており、その内容につっこみを入れようとする気力さえ失われさせてしまうほどだ。
  

2008年04月10日

君の望む死に方

君の望む死に方 (ノン・ノベル 845)

  •  石持 浅海

  • 販売元/出版社 祥伝社

  • 発売日 2008-03

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初期の石持浅海は、事件が起こっても警察が介入できないシチュエーションを考案し続けてきていたのだが、途中から警察の介入を許すようになってきた。しかし、警察が介入してくるようになってきても石持浅海のミステリはどこか変なのだ。基本的に石持浅海は特異なシチュエーションを設定しその中で論理をこね回すのが好きな人なのだろう。
というわけで今回は石持浅海版『ゼロ時間へ』だ。
考えてみれば前作にあたる『扉は閉ざされたまま』も、殺人そのものは起こっているのだが殺人事件そのものは発覚しておらず、殺人から殺人事件の発覚までの間の話であって、発覚を「ゼロ時間」とするならば石持浅海版『ゼロ時間へ』なのであるが、今回は完璧に事件そのものさえも起こっていない。アガサ・クリスティが設定した、殺人の時間をゼロ時間とするシチュエーションと全く同じなのである。
しかも、クリスティは本格ミステリとしての体裁を整えるために、探偵による謎解きと犯人の指摘をするためにゼロ時間後も描きざるを得なかったのにたいして、石持浅海は最後まで殺人事件を起こさず、それでいて探偵による謎解きをもやってのけているのだ。ここまでくると凄いというよりも偏執的、いや変態だと言いたくもなる。
そんなことが出来るのも前作で特異な名探偵を作り上げていたからで、今回も彼女は暗躍する。そう、「活躍」ではなく文字通り「暗躍」するのである。
たぶん、彼女は自分の感情でさえも論理で導かなければ出すことができないのではないだろうか。そう思えて仕方がない。
しかし、真に驚くべき部分は最終章なのである。探偵が一通りの講釈をたれ、そして退場したあとで、事件の黒幕は探偵の残した言葉からとんでもない結論へとたどり着くのだ。
じつにすばらしい。  
タグ :石持浅海

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)祥伝社
2008年04月09日

裸者と裸者

裸者と裸者 上  (角川文庫 う 15-3)

  •  打海 文三

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2007-12

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裸者と裸者 下 (角川文庫 う 15-4)

  •  打海 文三

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2007-12

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「ドラゴンクエスト」というゲームの中で一番印象に残っているセリフというと、僕の場合「しんでしまうとはなにごとだ」である。
先に進みたいが故に、ろくにレベルアップもせず猪突猛進で進めてしまうという自分のゲームスタイルのために、何度も読まされるはめになったのが一番の理由だ。
で、自分のゲームスタイルはさておき、不謹慎であることも承知の上なのだが、あえてこう言いたいのだ。

「打海文三よ しんでしまうとはなにごとだ」

『裸者と裸者』『愚者と愚者』と書き続けておきながら、最終作となるはずだった『覇者と覇者』を書き終える前に打海文三は逝ってしまった。
文句をいうのはお門違いなのだが、文句の一つも言いたくなる。
このまま書き続かれていったならば、ジョージ・R・R・マーティンの<氷と炎の歌>シリーズに勝るとも劣らない物語になったに違いないと思うと悔しくて仕方がないのだ。
異世界ファンタジーではなく、近未来の日本を舞台としていながらもSFでもない。まあSFと言い切ってもいいかもしれないけれども、そんなジャンルわけなどどうでも良くなってくるくらいに面白くって、そして考えさせられる。
マーティンのように情け容赦なく登場人物を殺してしまうということはないけれど、その代わりに成長物語としての面白さがそこにはある。登場人物たちが何を考え、そしてどのように成長していくのか、ああ、彼らの成長ぶりが見たくて見たくて仕方が無くなるのだ。
それなのにもはや続きを読むことはできなくなってまった。だからこう言いたいのだ。

「打海文三よ しんでしまうとはなにごとだ」  
タグ :打海文三

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)角川文庫
2008年04月08日

オトノハコ

オトノハコ (KCデラックス)

  •  岩岡 ヒサエ

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-31

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箱の中には何が入っているのだろうか。
SF者であれば、猫と答えるんじゃないだろうか。生きているのか死んでいるのかよく分からない可哀想な猫である。
京極夏彦ファンであれば、生首と答えるだろう。こちらもまた、生きているのか死んでいるのかよく分からない可哀想な首である。
リチャード・マシスン好きならば……、いやもうこれ以上考えるのはよそう。SFファンやミステリファンの考える箱の中味はほとんど無条件に嫌な物ばかりである。
しかし、嫌な物しか思いつかない自分もどうかと思うのだけども、だからこそ、こういう作品に出合ったときに非常にさわやかで新鮮な驚きを味合うことが出来るので、嫌な物しか思いつかない自分もそんなに悪いわけではないのだなと思うのである。
まあそれはともかく、岩岡ヒサエの考える箱の中には音が詰まっていたのである。

空っぽの箱の中には音が詰まっている。

ああ、自分の中のどす黒い何かが全て洗い流されていくような爽やかさだ。
音の表現としての新味こそないけれども、岩岡ヒサエの描く小さなキャラクターたちがいろいろと悩みながらも健気にいや、健気というよりもけっこうしぶとく成長していく様を見るのは心地よい。  
タグ :岩岡ヒサエ

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(1)漫画
2008年04月07日

あなたに不利な証拠として

あなたに不利な証拠として (ハヤカワ・ミステリ文庫 ト 5-1)

  •  ローリー・リン・ドラモンド駒月 雅子

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-03

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読んでみればこれはF・X・トゥールじゃないか。
いやトゥールは既に亡くなっているのでローリー・リン・ドラモンドはF・X・トゥールじゃないことはわかっているけど、F・X・トゥールが書いた『ミリオンダラー・ベイビー』の警察版だよねえ、これは。
トゥールよりも技巧的で突き放しているけれども、トゥールと同じ視線が感じられる。同じ眼を持っているのだろう。
というわけで、ローリー・リン・ドラモンドが描いた世界は私が視ることのできない視線で描かれており、それはそれで素晴らしいのだが、ミステリとして面白いかどうかというのは別問題だ。
トゥールは物語として描いていたのに対してローリー・リン・ドラモンドは物語としては描いていない。ただありのままの現実を、わざわざ効果的な手段を選んで突きつけるだけだ。
いわゆるミステリとしての面白さは何も無いことは知った上で読んだのでそのあたりは全然問題がなかったし、作者の突き放し具合がはよかったんだけど、最後の話になって突き放しきれなくなってしまったのが残念といえば残念。
  

2008年04月04日

マンハッタン・オプ

マンハッタン・オプI (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3) (ソフトバンク文庫 ヤ 1-3)

  •  矢作 俊彦

  • 販売元/出版社 ソフトバンククリエイティブ

  • 発売日 2007-10-18

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『海から来たサムライ』を大幅改稿した『サムライ・ノングラータ』といい、著者の理想するところに最も近い形態となった『鉄塔 武蔵野線』といい、ソフトバンク文庫はなかなか素晴らしい仕事をしてくれているのだが、ここへもう一つ加わることとなったのが<マンハッタン・オプ>シリーズだ。
複数の出版社から出ていたものを再編集し、谷口ジローの挿絵もあわせて収録した全四巻。
一編が20ページにも満たない分量の中で一歩間違えればレイモンド・チャンドラーのパロディと化すところをすれすれで踏みとどまった、簡潔でそして粋な文章はぼれぼれするくらいに素晴らしい。そしてその上でさらにプロットもひねってあって、意外な真相や粋なストーリ展開まで加わっているのである。やたらと分厚い海外の小説を読んだ後だと、こういった無駄をそり落とした簡素な、それでいて洗練された文章を読むとなんだかすがすがしい気分になってくる。
さらには全話に谷口ジローの挿絵が入っているので、もはや贅沢この上ない仕上がり。今まで絶版だったのだがここにこうしてめでたく復刊したことをありがたく思おうではないか。
  
タグ :矢作俊彦

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)SB文庫
2008年04月03日

シャルビューク夫人の肖像

シャルビューク夫人の肖像 (ランダムハウス講談社 フ 8-1)

  •  ジェフリー フォード田中一江

  • 販売元/出版社 ランダムハウス講談社

  • 発売日 2008-03-01

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はたして描く相手の顔を見ずして、声と相手の語る物語からイメージだけで肖像画を描くことができるのだろうか。
白い果実』では観相学なるものを担ぎ出していたり、「アイスクリームの帝国」では共感覚を題材にしていたりするので、作者自身はそれほど突拍子もないことではないと思っているのかも知れない。
まあそのあたりはともかくとして、シャルビューク夫人の語る物語は面白い。結晶言語学なる怪しげな学問から始まり、はたしてこの物語はどんな場所に着地するのかドキドキしながら読みふけったのである。
問題は、途中まではどのような物語を期待していたとしても、テンポのよい短い章立ても合い重なって楽しめるのだが、終盤になって物語は曖昧さを捨て、一方向へと傾いていってしまうことだ。
無論全ての期待するところを満足させる物語を作者に期待するのはあまりにも無茶であることは承知の上なのだが、全ての謎が実に気持ちよく合理的に解けてしまうあたりが、もう少し曖昧なままでもよかったんじゃないかと思わせてしまう。
ああ、読者というのは我が儘な存在である。  

2008年04月02日

白い果実

白い果実

  •  ジェフリー フォードJeffrey Ford山尾 悠子谷垣 暁美金原 瑞人

  • 販売元/出版社 国書刊行会

  • 発売日 2004-08

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本当ならば三作目が翻訳されたところで一気に読みたかったのだが、国書刊行会のことなので三作目がいつ出るのかわからないし、出たときには一作目が絶版になっている可能性もあるので、根負けして読み始めることにした。
三部作のうちの一作目なのでこの物語の後、どのような展開をしてくのかはわからないが、これ一作だけでも十分楽しかった。観相学が異様に発達した世界、想像していたよりはグロテスクさやビザールさは少なかったのだが、むしろこのくらいで丁度いいんじゃないかと思う程度のビザールさ。
改造されて、コインを入れなければ動かない赤ん坊とか、掘っているうちに自分自身が青い鉱石化してしまう鉱夫たちとか、体の一部を機械化させられて戦う闘士とか、観相学的に顔を手術されたのだが失敗し、見たものに死を与える顔になってしまったヒロインとか、一つ一つはそれほど驚くガジェットではないものの、ジェフリー・フォードの手に掛かるとグロテスクさとビザールさを伴ってなんともいえない奇妙な世界が立ち上ってくるのである。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)国書刊行会
2008年04月01日

道化の町

道化の町 (KAWADE MYSTERY)

  •  ジェイムズ・パウエル森 英俊白須 清美

  • 販売元/出版社 河出書房新社

  • 発売日 2008-03

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短編集が三冊も出たせいでジャック・リッチーがちょっと食傷気味になるという我が儘病が発生したわけなんだけど、まあ仕方がない。
で今回、ジェイムズ・パウエルの短編集が出た。
表題作の「道化の町」はこの間、『山口雅也の本格ミステリ・アンソロジー』で読んだばかりだったのでちょっと期待をしていたんだけれども、これが期待を受け止めてくれるだけの面白さだった。
ジャック・リッチーがあくまでミステリという大枠からはみ出さないでいるのに対してジェイムズ・パウエルは、はみ出るはみ出る。まあとにかく、そこまでやるかというくらいに物語にいろいろなものをくっつけるのだ。
ジャックと豆の木の後日譚である「魔法の国の盗人」などは後日譚である必要がないほどその世界を作り込んで、その上でさらにその物語自身にとんでもないエピローグを用意するのである。まったくどっちが後日譚なんだか。
「詩人とロバ」では十年という期間を与えてくれればロバに会話をさせてみせると王様に大見得を切ってしまった詩人の物語なんだけど、期日がきて王様に言い訳をし始めるのだが、これが物語になっておりしかも入れ弧構造となっているのでどんどんと内側に入っていく。それでいてその物語が何かの役に立つのかといえば対して役に立たない。作者自身が書いてみたかったから書きましたといった感じでもある。
そんな人を食ったような話があるかと思えば、「最近のニュース」は衝撃のラストめがけて一直線の直球だったりするし、どうしてそんな結末に向かうのだと作者に問いつめたくなるような「時間の鍵穴」なんて話もある。
というわけで無駄に凝りまくった話が実に素晴らしい。  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)河出書房新社
2008年03月31日

一日 夢の柵

一日 夢の柵

  •  黒井 千次

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2006-01

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いつの間にか中年と呼ばれる歳になってしまった。
まあその前には、いつの間にか大人と呼ばれる歳になってしまっていたわけなんだけれども、あと何十年か経ってまだ生きていたとしたら、老人と呼ばれる歳になってしまうのだろう。
しかし、問題なのは自分自身にその自覚がないことだ。いつの間にか大人と呼ばれる歳になってしまっても大人という自覚はまあ全くないわけではないけれども、子供ではなくなってしまったという気持ちはあまりない。
それがなにか問題があるのかといえば、今のところ特別問題があるわけではないのでそれほど気にする必要もないのかも知れない、というか気にするつもりなど、毛頭ない のだが。
というわけで、この本を読んだとき、主人公が老人といっても差し支えない年代であることになかなか気がつかなかった。いや、気付いてはいたのだけれども物語の世界に入り込んでしまうとそんなことを忘れてしまう。
おそらくこの本の主人公たちも、自分と同じように、自覚などせずいつの間にか老人となってしまったのだろう。
ただ単純に、肉体だけが老化していっただけなのだ。
自分もあと何十年かしたら、この本の主人公たちと同じようなことをしているのだろうなあ、などと思ってしまった。
そして読み終えてそのことに気付いた時、なんだか未来へとタイムスリップし、そして未来の自分を体験して帰ってきたような感覚におそわれたのである。  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)講談社
2008年03月28日

刈りたての干草の香り

刈りたての干草の香り (論創海外ミステリ 74)

  •  ジョン・ブラックバーン霜島 義明

  • 販売元/出版社 論創社

  • 発売日 2008-02

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ブライアン・オールディスが終末物と言っていなかったら読まなかっただろう。
ということで、読み終えた今現在、ブライアン・オールディスには感謝している。
論創海外ミステリというレーベルから出たいじょうはそれなりにミステリよりというか、結末としてはSFの方面へは行かずに着地するだろうと思っていたらいやはや驚いた。
解説でも書かれているように、ジョン・ブラックバーンという人はジャンルという概念など考えていないかのごとく、好き放題にやってくれている。この感覚は、読者を驚かすためならどんな手段でも用いるマイケル・スレイドと同じなのだよなあ。どおりで読んでいてワクワクしたわけだ。
もっとも、スレイドほどむちゃくちゃではないので、そっちの方面を期待するとがっかりするだろうけど、スレイドには無い落ち着き具合というかそこはかとなく絶望感に打ちひしがれている登場人物たちの物語はなかなか味わいがあっていいなあ。
時代設定が1958年という設定なのでそのあたりを理解しておかないととまどう部分もあるけれども、これがデビュー作というのであれば他の作品には大いに期待できるというもので、遅ればせながらジョン・ブラックバーンのファンになってしまった。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)論創社
2008年03月27日

蒸気駆動の少年

蒸気駆動の少年 [奇想コレクション] (奇想コレクション)

  •  ジョン・スラデック柳下毅一郎

  • 販売元/出版社 河出書房新社

  • 発売日 2008-02-19

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こうして読み終えてみると、やっぱり自分はSF作家としてのスラデックよりはミステリ作家としてのスラデックの方が好きだと言うことがよく判った。
なんだかスラデックのふざけ具合がどうも自分の好みからちょっとだけずれているんだよなあ。
感触としては筒井康隆に近い感触なんだけれども、筒井康隆をもっとあっさりとさせた感じかな。おそらくその差の部分が好きか嫌いかの分かれ目になっているのだろうなあ。
しかし、なんだかんだ言っても全23編も収録されていると、一つ一つの短編は短いもののかなり読み応えがある。そもそも、わけのわからない話やら、ただ単純に言葉遊びに終始している話もあったりするので、そのあたり真面目に受け止めようとすると疲れるのだ。
スラデックというと不条理ギャグといったイメージが強かったんだけれども、今回はそういった話はわりと少な目で、スラデックにしてはわりとまともな話というか、こんな話も書いていたんだというような話が多いので、ちょっとは安心して読むことが出来たのがよかったよ。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)河出書房新社