2008年07月02日

氷

  •  アンナ・カヴァン

  • 販売元/出版社 バジリコ

  • 発売日 2008-06-04

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サンリオSF版が出たときに、読まないという選択をした自分のちょっぴりの後悔に対する落とし前をつける意味で読んでみることにしたわけだが、まあ、自分がアンナ・カヴァンを必要としない側の人間だったことがよくわかった。
迫り来る氷と世界の崩壊というイメージの割にはそれほど緊迫感はなくって、いわば糞尿の匂いを全く感じさせない世界であり、汚れの無いCGで作られたかのようなきれいな世界。
最初のうちは、トーベ・ヤンソンの『誠実な詐欺師』が頭によぎっていたんだけれども、世界の冷たさと登場人物の世界の崩壊という部分では似ていたかのように思えたのだが、読み進めていくと両者は全く違うものだった。
無意識的にカヴァンの『氷』に『誠実な詐欺師』のようなものを求めていたせいで、それが違っていたことにがっかりしてしまった部分が大きい。今思うと何で『誠実な詐欺師』のようなものを『氷』に求めようとしていたのか不思議なんだけど。
しかし、この静かで綺麗でそしていびつな世界はたまに読むのであれば悪くはないんだよなあ。
  

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2008年07月01日

野獣の書

老人と宇宙』の時にも書いたがロバートといえばロバート・A・ハインラインというほどハインラインに傾倒していた時期があった。そんな時期、「孤児」といえば『宇宙の孤児』であったから、ロバート・ストールマンの『孤児』は真っ先に目を付ける割にはすぐさま無視される本だった。
しかしハインラインに対する熱も冷めてくると、逆にいつも頭に浮かぶのがストールマンの『孤児』だった。しかし、その頃にはもはや絶版、でも読めないとわかるとなおいっそう読みたくなるのが悲しい性である。
で、読んでみた。
読みたいから直ぐに探し、入手して読んでみるなどという欲望にあっさりと身を任せてしまう行動は大人としていかがな物なのだろうかとも思うのだが、とりあえず棚に上げておこう。棚に上げるだけの価値はあったのである。
ハインラインに傾倒していた頃だったらこの本の面白さなど全然わからなかっただろうことを思うと、読むべき時期に読むことが出来たというのは幸せな事だと思う。
読みながら真っ先に頭に浮かんだのが、ジョー・ホールドマンの『擬態 - カムフラージュ』だった。あちらは、手っ取り早く言えば、異星生物が人間的な感情を学ぶという話だったが、ストールマンの<野獣の書>も似たような展開をする。
ただし、ストールマンの場合は変化球で責めてくる。「おれ」という謎の生き物は最初からかなりの知識と思考能力を持っており、そして人間に変身する事が出来るのだが、人間に変身した場合別の人格を持った人間として変身するのである。そこでは「おれ」という存在は内側になり、別人格と会話をすることは出来るのだが、基本的に人間としての体を操ることは出来なくなってしまう。
最初から何故知識と思考能力を持っているのか、別の人格はどこから現れたのか、などという説明は一切ないまま話は進む。その点がホールドマンの話と大きく違う点だが、ストールマンの語りは異様な説得力を持っているので全然気にならない。
一巻の『孤児』では5歳くらいの子供と12歳くらいの少年と二人の人格が登場する。野獣である「おれ」はこの人格を通して経験を積んでいくのだけれども己の中に潜む獣性ゆえに夜な夜な野獣と化してさまよい歩く。まあ危険になれば野獣に変身して難を逃れるんだけれども、逆に野獣のままでピンチな時には人間に変身してその場を逃れたりする。
そのせいで12歳の少年チャールズは一巻の終わりで「おれ」にとんでもない屈辱を味わされてしまうことになる。
二巻の『虜囚』になると第三の人格が登場して大人となるのだけれども、彼は人妻に恋をしてしまう。でもって相手の方も主人公の事を好きになってしまっていやはや、ドロドロの不倫関係になってしまうのだ。大人になったものだからそれはもうくんずほぐれつ獣のごとき性愛。まあ主人公は野獣なんだからしかたないかって気もするんだけれども。
しかも旦那の性格が良くなく、だらしのない駄目亭主のように描かれているのでやましさなど微塵のかけらも感じさせないところが素晴らしい。
そして、三巻では二匹目の野獣が登場し、主人公の物語と交互に語られる事となるのだが、両者の話が重なって最後の数頁で一気に野獣の謎が解ける事となる。
三巻はまあ謎解きのためだけにあるような存在になってしまっているところがちょっと惜しいのだが、主人公たちが最後に出した結論はなかなか味わいがあっていいなあ。

孤児―野獣の書1 (1983年) (ハヤカワ文庫―SF)

  •  ロバート・ストールマン

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1983-05

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虜囚―野獣の書2 (1983年) (ハヤカワ文庫―SF)


  •  ロバート・ストールマン

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1983-07

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野獣―野獣の書3 (1983年) (ハヤカワ文庫―SF)


  •  ロバート・ストールマン

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1983-12

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2008年06月30日

神と野獣の日

神と野獣の日 (角川文庫 ま 1-36)

  •  松本 清張

  • 販売元/出版社 角川グループパブリッシング

  • 発売日 2008-05-24

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思っていたよりも短い話だったので、こんなことならもっと早く読んでおけばよかったと思ったのだけれども、破滅物を好んで読んでいた時期に読んでいたら物足りなく感じていただろうなあ。
小松左京が書いていたら政府の対応絡みの部分を含めてもっとシミュレーション性の高い内容になっていただろうし、筒井康隆が書いていたらもっと戯画化されてメッセージ性が強くなっていただろう……って筒井康隆の場合は『霊長類南へ』で既に破滅物を書いているか。
しかも、作中内での猶予時間はわずか一時間程度なので小松左京が書いたとしてもまあ似たような形にしかならないかもしれない。
しかし、この話が「女性自身」という雑誌に連載されていたということを思えば、少々の物足りなさなど気にすべきではないというか、よくもまあこんな話を連載したものだと感心してしまう。
どことなく淡々と描写しているあたりは、掲載紙が掲載誌だった故のやりかただったのかも知れないが、それが一種独特の雰囲気を醸し出しているあたりはさすが松本清張だと思うのだが、SF小説が本業でもないくせにこんな話を書いてしまう松本清張の底力を見せつけられてしまった。
  

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2008年06月27日

子供たち怒る怒る怒る

子供たち怒る怒る怒る (新潮文庫 さ 63-1)

  •  佐藤 友哉

  • 販売元/出版社 新潮社

  • 発売日 2008-04-25

Amazon/楽天ブックス



ミステリから離れた作品なのだけれども、ミステリ分が無くなっただけでそれ以外は大きく変化したわけではない。
もっとも、ミステリという束縛を逃れた分だけ自由になったという面もあって、ミステリよりもこっちの方面のほうがいいんじゃないのかとも思えるのだが、それにしても危うい。
ミステリを書いていた時もそうなんだけれども、毎回々々、自分の限界をさらけ出して書いているような感じで読んでいて実に切ない気持ちになってくる。
それはともかくとして、相変わらずタイトルの付け方は素晴らしく、「大洪水の小さな家」などはちょっと悔しい気がするくらいに素晴らしいタイトルで、中身の方がちょっとタイトル負けしているのが残念。
しかし「死体と、」を読んで驚いた。うーむ、作中で起こっていることはいつもの佐藤友哉の世界なのだけれども、語り口を変化させるとこうも面白くなるのかと目から鱗が落ちる思いをした。
そんなわけだから、この方面を突き進んでも、もう何も出てこないんじゃないかというところをピンポイントで狙っているかのごとき道を歩んでいるように見えるけれども意外といろいろと出て来るものだよなあ。
  
タグ :佐藤友哉

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2008年06月26日

酔いどれ探偵

酔いどれ探偵 (新潮文庫)

  •  都筑 道夫

  • 販売元/出版社 新潮社

  • 発売日 1984-01

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都筑道夫という人は多才な人だったが、それ故にか、けっこうとんでもないことをしでかす人でもあった。
彼の翻訳したとある短編などは途中から彼の創作だったりするし、『怪奇小説という題名の怪奇小説』ではジョン・スタインベックの「蛇」がまるごと収録されている。作中作というのは珍しいものではないが、他人の作品が作中作になっているのは珍しい部類だろう。
マリオン・マナリングの『殺人混成曲』という本の翻訳では、十人の訳者を集めそれぞれのパートを翻訳させて、可能な限りの文体模写に努めたりしている。
ポケミス版の『酔いどれ探偵街を行く』では9話目に何気なく自作の贋作を紛れ込ませたりするあたりは、もうやりたい放題である。
まあ、こんなことをされるのはいい迷惑かもしれないけれども、ここまでやることの出来る人はもう現れないだろうと思うと寂しい気もする。
カート・キャノンの『酔いどれ探偵街を行く』の贋作を集めた『酔いどれ探偵』では、契約の問題上、主人公の名前がカート・キャノンではなく、クォート・ギャロンに変更されているのが少し残念だけれども、解説が淡路瑛一になっているあたりは思わずニヤリとしてしまうのだった。
ジュードーの技を使ったり、日本人が登場したり、密室殺人が起きて主人公がディクスン・カーの名前を出したりするあたりが、まあ、楽しんで書いているよなあという気にさせられる。  
タグ :都筑道夫

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2008年06月25日

闇を食う男

闇を食う男 (天山文庫)

  •  都筑 道夫

  • 販売元/出版社 天山出版

  • 発売日 1988-09

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『無限の住人』の最新刊が出たのだけれども、ほぼ全編にわたって殺戮の嵐なところが凄まじい。よくここまでやれるものだと感心してしまった。
でそれはともかく、沙村広明の『無限の住人』は「血仙蟲」によって不死身の体となった主人公が、その呪いを解くために千人の悪を斬るという設定の話なのだが、都筑道夫の作品にも似たような設定の話がある。
南米の邪神の呪いを受けて500人を殺すまでは死ねない体となった男が主人公だ。『無限の住人』と比べれば殺さなければならない人間の数は半分なのだが、それでも一冊の本の中で500人もの人間を殺すのは並大抵のことではない。しかもこの話は長編ではなく、連作短編なのである。
で、どうするんだろうと思ったら、最終話まできても目標値まで達成していない。設定はあくまで主人公を動かすためだけの道具であって、物語の骨とはなっていないのである。
だから、死ねない体でありながらも『無限の住人』の主人公のように手足が切り取られたりするような展開は全くない。
主人公は殺人を請け負って、ひたすらというか淡々とそして無情に殺していくだけなのである。
それの何処が面白いのかというと、まあ設定から想像するような面白さは全くないかわりに、依頼された殺人の内容に一ひねりしてあって都筑道夫しか書けないおもしろさがあるのだ。もっとも、都筑道夫が書いたからこそ、こういう展開にしかならなかったともいえるのだが、何ともいえない味わいがあるのである。  
タグ :都筑道夫

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2008年06月24日

ザ・ロード

ザ・ロード

  •  コーマック・マッカーシー

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-06-17

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まったくもってコーマック・マッカーシーは卑怯だ。
卑怯すぎる設定、卑怯すぎるプロット、そして卑怯すぎる文体でもって、自分の息子に対するありったけの想いやら愛情やらという妄執を注ぎ込んで、あざといまでの小説を書きやがった。
そのおかげで80ページくらいまで読んで、もうその先を読むのが辛くなってしまったのだが、まだこの先、いままで読んできた二倍以上のページ数が残っているのを考えたらさらに絶望的な気分になってしまった。この物語が80ページくらいの短編だったらどれだけよかったのかとしみじみ思ってしまうくらい読むのが苦しかったのである。まるで、どっちが先に心が折れるのか根比べをさせられているかのような話だ。
人間の知性と理性とそして科学技術に対する信頼を持ち続けている身としては、必ずしもマッカーシーの描く世界を肯定することは出来ないのだが、ちょっと気を抜くと、人間の知性と理性を信頼し続けることが甘い考えなのかも知れないと思わせられそうになってしまうわけで、これはこれで困ったものだ。
しかし、解説にも書かれているように最後は見事なまでに『子連れ狼』。そりゃそうだろうなあ、息子に対する想いと妄執を断ち切るためにはこういう結末にするしかないよなあ。
父親として何ができるのかが問題であって、世界が滅ぶとか人類が滅亡するとかといった事柄はたいした問題ではないのだ。  

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2008年06月23日

荒野

荒野

  •  桜庭 一樹

  • 販売元/出版社 文藝春秋

  • 発売日 2008-05-28

Amazon/楽天ブックス



世の中には、三部作構想だといってきっちり三部作に仕上げてしまう作家と、三部作の三作目を出さないままの作家と、四部作にしてしまう作家の三タイプがいる。
三作きっちりと仕上げてくれる作家が一番好ましいのだけれども、それでも三作目で失速してしまう場合もあるのでそういうことを考えると三作目を出さないままでいる方が、ある意味良心的かもしれない。四部作にしてしまう場合、これは四部作で終わらない場合も多々あるので、これはこれで良いような悪いようなということで、まあどのパターンであっても一概に良いとはいえないのではないかと思ったりもする。
正直な話、もう第三部は出ないだろうと思っていたので驚いたのと同時に読むのが怖い作品だった。
いっそのこと積読のままにしておこうかとも思ったのだが、まあ思い切って読んでみた。
で、結果としては満足した。いや、多分どんな形であっても出た以上は満足しただろう。そしてそれと同時に不満足でもあるのだ。
ひとつは題名から「恋」が消えたように、第三部では恋が抜け落ちているせいだ。無論、それは読者としての我が儘であることも十分承知の上のことなのだ。だから不満足でありながらも満足している。
しかし一番の理由は理想とする形では第三部は出なかったことだ。良くも悪くも望んでいたのはライトノベルとしての第三部であって、このような形ではなかったのだ。
ああ、多分私はどこかで平行世界の壁をすり抜けてしまったのだろう。元の世界では理想とする形で第三部が出たに違いない。  
タグ :桜庭一樹

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)文藝春秋
2008年06月20日

怪獣大陸

怪獣大陸 (1980年)

  •  今日泊 亜蘭

  • 販売元/出版社 朝日ソノラマ

  • 発売日 1980-06

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大人が読んでも楽しめるジュブナイル小説もあるけれどもそんなものはごく少数で、分別のついた大人が読むと楽しめないものが大半だ。
で、どちらが素晴らしいのかといえば、大人が読んで楽しいかどうかなんてのは判断基準にするべきではなくって、やはり子供が読んで楽しい物が一番なのだと思う。
『怪獣大陸』はどうかといえば、分別のついた大人が読むと確かにつらいものがあるのだが、子供の頃に読んだらさぞかし面白かっただろう。というわけで子供の頃に読んでおかなかったことをちょっと後悔した。
では、大人になって読んだら駄目だったのかというとそれほど駄目だったわけではなく、まあ要するにご都合主義が大手を振って歩き回っている展開にちょっとげんなりしてしまったのと、大人も子供もべらんめえ調でしゃべるのにちょっと違和感を感じたくらいだった。
まあ後者に関していえば、それが今日泊亜蘭の特徴なのだから、それが駄目というのは今日泊亜蘭ファン失格なんじゃないかという気もして落ち込みそうなんだけれども、体調が悪かったということにしておこう。
とりあえず後者の件は気が付かなかったことにして前者の件に関していえば、とにかく主人公がピンチに陥るとUFOが飛んできて謎の宇宙人が、「われわれは君たちの味方じゃないけれども今回は助けてあげよう」などといって助けてくれるのだ。
で、この謎の宇宙人達が何者なのかといえば最後までわからないままなのだ。メインとなる話にも全く関係してこない。
もうまさにご都合主義の固まりというかデウス・エクス・マキナのようなものとしかいいようがないのだが、そこはおそるべし今日泊亜蘭。完全に成功しているとは言い難いのだが最後の最後で謎の宇宙人の存在をこの物語のテーマとを結びつけて必然性を与えてしまうのだ。  

タグ :今日泊亜蘭

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2008年06月19日

エア

エア (プラチナ・ファンタジイ) (プラチナ・ファンタジイ)

  •  ジェフ・ライマン

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-05-23

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解説では、人間くさいおばさんが心の中に住んでいれば一気呵成だなんてやけに弱気なことが書かれていたけれども、心の中におばさんが住んでいなくったって大丈夫だろう、これは。少なくとも池上永一の『夏化粧』よりはまともじゃないか。
生計の糧となる自分の知識と技術が時代遅れになってしまうことの不安と恐れを体験したことのある人間ならば、主人公の気持ちはよくわかるはずだ。
なおかつ自分のまわりの人間はそれに対して何の対応もとろうとしない状況下でむなしく孤軍奮闘するありさまは、まるで自分の過去を振り返っているかのようだ。
為すすべもなくやって来て、そしてそれに適応できなければ何処かへ押し流されてしまうようなパラダイムシフトを体験したことのある身にとっては全く持って人事のような話ではなく、主人公の不安とあせりは痛いほどよくわかるのだ。
もっとも、あの当時の自分もさぞかし嫌な奴だったのかも知れないのだが、全てを洗い流してしまうような大きな流れを乗り越えようとするのであれば摩擦は発生する。自分を正統化するつもりはないけれどもそれでも……なんて話はもうやめよう。所詮はエゴなのだ。
まあ、主人公はおばさんであるのに対して、こちらはおじさんなので共感できない部分も多々あるけどもね。とくに胃の中での妊娠ってのはなあ……、あれは作者の願望みたいなものなのかな。生理的に受け付けない生々しさってのがある。
<エア>という技術が登場するのでもう少しSF的な展開をするのかと思ったら拍子抜けするほど地に足のついた展開で、そこのところはちょっと意表をつかれたのだが、読み終えてみるとマンデインSFという形でジェフ・ライマンがやろうとしているものが何となく見えてきたような感じがした。  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)早川書房
2008年06月18日

マンガ編集者狂笑録

マンガ編集者狂笑録 (水声文庫)

  •  長谷 邦夫

  • 販売元/出版社 水声社

  • 発売日 2008-04

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評伝もしくは評論だと思っていたのだが、作者の言葉によればそのどちらでもなく、あくまで小説ということだった。そういう意味では、『漫画に愛を叫んだ男たち』と同じである。
ただ、読んでいる最中はやはり、実名を出してそしてここまで生々しく書かれているとフィクションという感じはせず、あくまでノンフィクションを読んでいるような気がしっぱなしだった。
しかしなあ、しかしだ、読み終えて自分の中であるていどこの物語が消化できてくると、やっぱりこれは長谷邦夫による小説だったのだと思った。
「天皇に捧げるマンガ」や「かんにんしてやゴメンやで」などはそうだよなあ、ノンフィクションとしても通用するかもしれないけれどもやはり小説なのだ。
今まで、漫画編集者を主人公にしてここまで生々しく描いた小説が無かっただけ、いや、あったのかもしれないので単に私がその存在を知らずに読まずに来ていただけとしておこう、であって要するにこういう話に耐性がなかっただけなのだ。
なんていうふうに思っていたら『金色のガッシュ!!』の作者が小学館を訴えるというもっと生々しい事件が起こってしまったので驚いたのだが、それはそれとして、ひょっとしたら、何かとんでもない物が生まれた瞬間に立ち会ったのではないかという気がするのだが、それはやはり作者の今後の活躍次第だろうなあ。  
タグ :長谷邦夫

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)水声社
2008年06月17日

夜にその名を呼べば

夜にその名を呼べば (ハヤカワ文庫 JA サ 2-2)

  •  佐々木 譲

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-05-08

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佐々木譲は『五稜郭残党伝』しか読んだことはなかった。
『五稜郭残党伝』しか読んだことがなかったといっても、『五稜郭残党伝』がつまらなかったわけではない。他の作品も読んでみようかと思うくらいに面白かったのだが、残念ながら『エトロフ発緊急電』とか『ベルリン飛行指令』とかに手を出すつもりだったのに何故か手を出さないまま今まで来てしまった。
多分単純に、『五稜郭残党伝』と同じ系統の作品があれば読み続けたのだろうけれども、そういう作品がたまたま見つからなかっただけなのだ。
というわけで、佐々木譲がウールリッチのファンだということも知らなかったし、『夜にその名を呼べば』がウールリッチのオマージュであることも解説を読むまで知らなかったわけで、先に解説を読まなければ多分手を出さなかっただろう。
で、読んでみるとそれほどウールリッチの雰囲気は感じられない。ココム輸出規制違反だとか、それによって現内閣が吹っ飛ぶといった、やけに現実的な話から始まるというのがその原因なんだけれども、まあウールリッチの模倣ではなくオマージュであるわけだから、文句を言うところではないのだろう。
もっとも、そういう表層レベルをはぎ取ってみると、物語においての経過時間が第一部では一日、第二部は数日だが、第三部では一日と短時間の間の出来事だったり、第一部の展開などはいかにもウールリッチという展開で、ああ確かにこれはウールリッチのオマージュだと思うのである。
しかし、事の真相まで読み終えて、オマージュになっているとはいえ、というかウールリッチのオマージュとなればそういう結末にしかならないのだが、なんともやるせない結末の付け方をさせられると、もっとウールリッチっぽさを出してくれてもよかったのにと我が儘をいいたくなってしまう。  
タグ :佐々木譲

2008年06月16日

限りなき夏

限りなき夏 (未来の文学)

  •  クリストファー・プリースト

  • 販売元/出版社 国書刊行会

  • 発売日 2008-05

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ハーラン・エリスンの言いなりになっていたら日の目を見ることができなかった「限りなき夏」はどこが危険なヴィジョンだったんだろうと思うくらいの甘い話なんだけど、しかしよく考えてみれば、物語の幕は閉じたけれども事態は一向に改善されていなくって、まあ一人で苦しむよりは二人の方が良いし、それが恋人同士であればなおさら良いわけなんだが、それが永遠と続くとなると、うーむ……。
なんて思ってしまうのは歳をとった証拠なのかもしれないけれども、人生あきらめも肝心だよなあなどと妥協し始めている今日この頃の私にとっては「青ざめた逍遙」の方が心にしみいる。ラストの一文なんていいよなあ。
デビュー作「逃走」のラストの豪快なうっちゃりはさておいてといいたいところなんだけれども、その次の「リアルタイム・ワールド」を読むと、まあ確かにここでも最後に豪快なうっちゃりをしていて、トンデモ理論がどう繋がるのかと思ったら、そうですか。
で、ここまでがいうなれば前半で、その後が後半。
プリーストがいかにエロいのかってのがよくわかりました……ってのは半分冗談だけど、「奇跡の石塚」にはやられてしまったよ。まさかそんな手を使ってくるとは思わなかった。
  

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)国書刊行会
2008年06月13日

ゴメスの名はゴメス

ゴメスの名はゴメス (光文社文庫 ゆ 4-1 結城昌治コレクション)

  •  結城昌治

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-04-10

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『ゴメスの名はゴメス』という題名はインパクトのある題名だし、スパイ小説の金字塔ということも知ってはいたのだが、スパイ物というのはあまり好みではないので敬遠していたのだけれども、こうも結城昌冶の小説が復刊されると、今が読み時だという気がしてきたので読んでみた。
きな臭くはなっているけれども、アメリカの本格的な軍事介入はまだ行われていない時代のベトナムが舞台なせいか、読んでいて異国情緒という以前に全く知らない世界に放り込まれた感じで、読んでいて実に心細い。
しかも主人公はただの商社マンであり、何か特殊な能力や武道の達人などといった秀でた力の持ち主でもないごく普通の一般人で、スパイのスの字すら気配を感じさせない。
主人公の友人であり前任者が行方不明となったためにベトナムに派遣されることとなったわけだが、何がそこで起こっているのか、もしくは何が起こったのか深い霧の中を手探りで突き進むというか、ベトナムという国の中で起こっている何かに全てが紛れ込みそして消されてしまっているという不安感は素晴らしい。
この雰囲気はどことなくディッシュの「アジアの岸辺」と同じ雰囲気がして、スパイ小説というよりも見知らぬ異国の幻想的な話という印象が残った。
  
タグ :結城昌治

Posted by Takeman at 12:30Comments(0)TrackBack(0)光文社文庫
2008年06月12日

来月の気になる本 2008/7

『メグとセロンⅢ ウレリックスの憂鬱』時雨沢恵一 電撃文庫
『ハローサマー、グッドバイ』マイクル・コーニイ 河出文庫
『カタブツ』沢村 凜 講談社文庫
『ロズウェルなんか知らない』篠田節子 講談社文庫
『踊る夜光怪人』はやみねかおる 講談社文庫
『レイコちゃんと蒲鉾工場(仮)』北野勇作 光文社文庫
『マイナス・ゼロ』広瀬 正 集英社文庫
『流行の学園 ラブコメを目指してみる(仮)』田中ロミオ ガガガ文庫
『銀齢の果て』筒井康隆 新潮文庫
『忘れないと誓ったぼくがいた』平山瑞穂 新潮文庫
『向日葵の咲かない夏』道尾秀介 新潮文庫
『セカンドウィンドⅡ』川西 蘭 ピュアフル文庫
『スロー・ラーナー 〔新装版〕』トマス・ピンチョン ちくま文庫
『落下する緑 永見緋太郎の事件簿』田中啓文 創元推理文庫
『消滅の光輪(上下)』眉村 卓 創元推理文庫
『長い長い眠り』結城昌治 創元推理文庫
『戦いの子』カーリン・ロワチイ ハヤカワSF文庫
『螢女』藤崎慎吾 ハヤカワJA文庫
『フリーランチの時代』小川一水 ハヤカワJA文庫
『灼熱のエスクード(2)LADY STARDUST』貴子潤一郎 ファンタジア文庫
『ジャック・ケッチャム中篇集(仮)』ジャック・ケッチャム 扶桑社ミステリ
『追憶のかけら』貫井徳郎 文春文庫

出た当時に買っておけばよかったと後悔しているんだけれども、まあ、あの当時は甘ったるいSFが嫌いだったから仕方ない。
というわけでマイクル・コニイの『ハローサマー、グッドバイ』が新訳で復刊。この勢いで、続編の方も出てくれるとうれしいなあ。
復刊といえば、広瀬正の『マイナス・ゼロ』も復刊。本屋大賞での復刊アンケートが効いたのかな。まあ既読なので個人的にはそれほどうれしいわけでもないんだけど、その昔、集英社文庫で広瀬正全集が毎月刊行で出た時には毎月が楽しかったですよ。
前作を読んでからそれほど経っていないのに川西蘭の『セカンドウィンドII』がようやく登場。わりといいタイミングで出てくれました。しかし、お話としてはどのくらい進むのだろうか。
眉村卓の『消滅の光輪』も復刊、この調子だと『引き潮のとき』も出そうな感じですがどうだろう。歳をとったおかげか、ようやく眉村卓の<司政官>シリーズを楽しむ土台が自分の中に出来た感じなので、読むのが楽しみ。
藤崎慎吾の『螢女』がハヤカワJA文庫から復刊ということで、まあこれは『ハイドゥナン』からみということもあるだろうけど、朝日ソノラマ文庫のサルベージがけっこう行われているなあ。
カーリン・ロワチイは初耳の作家。調べてみたらこんな感じでどうもハインラインの『銀河市民』っぽい話のようだ。
  

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