『暗闇の殺意』 中町信
- 暗闇の殺意
- 著: 中町 信
- 販売元/出版社: 光文社
- 発売日: 2014/1/9
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東京創元社から復刊された一連の長編が好評だったおかげか、ちょっとした中町信ブーム、とまではいかなくってもそれなりに再評価されるようになった。
そのタイミングを狙ってか、光文社文庫から中町信の短篇集がでた。その本のタイトルが『暗闇の殺意』と東京創元社の一連の復刊が全て当初の題名から改題されて『○○の殺意』で統一されているのに合わせているあたりが狙っているなという気持ちもするけれども、実際に収録されている短編の中に、この題名の短編があるのだから、偽りではない。
過去に出た短篇集の文庫化というわけではなく、新たに編集されなおした短篇集でなおかつ雑誌掲載されたまま書籍未収録だった作品が入っているあたりはファンにとっては嬉しい一冊だろうし、収録されている短編自身も、ダイイングメッセージ物と、本編の最初と最後にプロローグとエピローグがあり、プロローグで描かれている内容がエピローグを読むと想像していたのとは全く異なる状況を描いていることが判明するという、中町信の長編でよく使われるパターンの話と、大きく分けて二種類の系統の短編が収録されている。
僕はダイイングメッセージ物というのが苦手というかあまり好きではなく、というのもエラリー・クイーンの作品批評でクイーンはダイイングメッセージに取り憑かれてからダメになったという批評を読んでそれ以来ダイイングメッセージ物に対して苦手意識が働くようになってしまった。
今まさに自分が死ぬという状況で、犯人が誰かということを何らかの形で残す際に、名探偵以外誰もわからないようなメッセージを残すのは不自然であるというのがその論調の一つで、といっても全てのダイイングメッセージ物がそれに当てはまるというわけではないが、とんちクイズ的なものが好きではないのだ。
で、この本に収録されたダイイングメッセージ物はどうかといえば、そんなに悪くはない。「Sの悲劇」におけるダイイングメッセージの謎などは優れているといってもいい。かといってダイイングメッセージ物が好きになったかというとそうでもないのだけれども。
ただ、一読してみて感じるのは、小説としてあまりおもしろくないという点だ。作品自体が古びているというのもあるけれども、それを抜きにしても当時それほど評価されていなかった理由もなんとなくわかるのが実感できる短篇集だ。
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