夜の夢見の川

Takeman

2017年09月12日 17:48

小説を読むのは好きなのだが、結末がすっきりしない物語というのが苦手だ。
なので、本格ミステリやSFといったジャンルの物語を読むことが多い。本格ミステリの場合は謎があるが、それは解かれるべき謎で、物語の最後には全てすっきりと割り切れる。SFの場合は架空論理の構築による物語なので、物語全体が理屈であって、これもまたすっきりとしている。
もちろん、どちらのジャンルにも例外的な物語は存在するのですっきりしない物語もあるのだが、それはそれでそれが全てというわけではないので安心して読むことができる。
それに対して、何がどうなったのかはっきりとしない物語というものが存在する。
江戸川乱歩によって奇妙な味と名付けられた物語たちで、物語の中で起こった出来事は曖昧なまま、読者の判断に委ねられる。
この本に集められた物語も、編者があえてそういう傾向の物語ばかりを集めたということで、読む前から身構えて読むことになった、
が、不思議なことに身構えると逆にすっきりとしなさ加減が気にならなくなり、全編楽しく読むことができた。
もっとも、楽しくと書いたが、実際はそんなに楽しい話ばかりではなく、巻頭の「麻酔」は実に嫌な話で、歯医者に行ったらとんでもない目に遭ってしまったという物語。すっきりしないというよりも、主人公の身の上に降り掛かった出来事のあまりにもの酷さ加減に、読んでいてこちらのほうがむずむすとしてきてしまう。
キット・リードの「お待ち」も嫌な話で、母娘が自動車で旅行に行った先の町でとんでもない目に合う、しかも娘の方だけ、という話。
確かにどちらの話も何故そんな目にあったのかという理由は語られないのですっきりしない話なのだが、主人公が遭わされた出来事は明確なのですっきりとした話だ。それに対してエドワード・ブライアントの「ハイウェイ漂泊」は不思議なことは何も起こらない。全編仄めかしで、何も起こらないけれども、なにか不思議なことが起こっているような錯覚を起こす。いや起きているのかもしれないが、物語の中では描かれない。うまいなあと思う。


関連記事