運命号の冒険

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ウィルスン・タッカーの「アメリカ滅亡」に引き続いてまたもやQ-Tブックスです。今度は、ディヴィッド・グリンネルの「運命号の冒険」。
ディヴィッド・グリンネルがドナルド・A・ウォルヘイムの筆名であることを知らなかったならば読まなかったでしょう。だからといって無理して読むほどの本でもないのですが……。
主人公は缶詰会社の若い社長で大富豪。なぜ缶詰会社なのかというと、宇宙旅行用の特殊な缶詰を作っているからで、細かな所の設定が妙に凝っているのがこの本の特徴でもあります。
で、この主人公、幼い頃からの偏った英才教育のおかげで、自分だけの星を探してその星の王様になりたくて仕方がないという困った男。その困った男がクモ類火星人を従者に従え、持てる財力にまかせてとある小惑星を勝手に自分の星にしてしまったことから大騒動が起こるという話なんですが、まあよくあるスペースオペラでした。
そんなわけで話そのものはたいして面白くないのですが、先にも書いたとおり、妙に凝った細部の設定が面白いのです。火星には火星人がいて地球と協定を結んでいるのですが、火星人というのが一つの種族で構成されているのではなく様々な種族から構成されていて、従者となるクモ類火星人もその一人。そしてその名前が「第三小ワジ」。「第三小ワジ」なんて原著ではどうなっているのか非常に気になる名前なんですが、それ以上に凄いのが火星人の性格。ある程度の文明を持っているのだけども、ある時突然まあこんなものでいいかとばかりにそれ以上文明を発展させることを止めてしまったという凄い設定。
その他にも、通常は十日程度で行き来する地球－火星間を三年かけて航海する人々やら、地球の文明を中途半端に理解して好戦的になってしまった土星人など、無駄に凝った設定が面白い一冊。主人公の冒険なんてどうでもよくなります。