2007年11月27日12:30
続編テーマのアンソロジー≫
カテゴリー │架空アンソロジー
『地球の静止する日』に収録された「ロト」に関して、続編の「ロトの娘」も収録されれば良かったのになあと書いたら、続編の方も読んだけど嫌な話だったというコメントばかりでちょっと悔しい思いをしたことがあったけれども、まあそのうち何とかして読んでみようと思っていたらずいぶんと歳月が流れてしまった。そこでちょっと気合いをいれてSFマガジン99号を探してみたら意外と簡単に見つかったので早速読んでみることにした。
確かに嫌な話で、前作の「ロト」が気になった人には是非とも読んでもらいたい嫌な話なのだが、残念ながらこのまま埋もれてしまう作品であろうなあ。
というわけでなんとかこの作品を世に出す方法がないものかと無い頭を振り絞って考えてみたところ、この作品が収録されても不思議ではないアンソロジーが組まれたらそのチャンスがあるのではないかと思いついた。まあそんなに振り絞らなくったって直ぐに思いつくことなんだけど、問題はそのアンソロジーのテーマの方である。
で、思いついたのが『続編アンソロジー』というテーマだ。
正編とその続編という二作品で完結している中短編を上巻が正編、下巻が続編という上下巻の構成にまとめてみるのである。
というわけで収録作品を考えてみたのだが、比較的簡単に作品がそろうだろうと思っていたら、探してみると意外と見つからない。もちろん自分自身の知識不足という物が一番の原因で、『わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?』のおおぎょるたこさんや、『奇妙な世界の片隅で』のkazuouさんならばもっと面白い作品を選択してくれるだろうけれども私の知識ではこれが限界。
ああ、だれかこんなアンソロジーを作ってくれないものだろうか。
確かに嫌な話で、前作の「ロト」が気になった人には是非とも読んでもらいたい嫌な話なのだが、残念ながらこのまま埋もれてしまう作品であろうなあ。
というわけでなんとかこの作品を世に出す方法がないものかと無い頭を振り絞って考えてみたところ、この作品が収録されても不思議ではないアンソロジーが組まれたらそのチャンスがあるのではないかと思いついた。まあそんなに振り絞らなくったって直ぐに思いつくことなんだけど、問題はそのアンソロジーのテーマの方である。
で、思いついたのが『続編アンソロジー』というテーマだ。
正編とその続編という二作品で完結している中短編を上巻が正編、下巻が続編という上下巻の構成にまとめてみるのである。
というわけで収録作品を考えてみたのだが、比較的簡単に作品がそろうだろうと思っていたら、探してみると意外と見つからない。もちろん自分自身の知識不足という物が一番の原因で、『わしには,センス・オブ・ワンダーがないのか?』のおおぎょるたこさんや、『奇妙な世界の片隅で』のkazuouさんならばもっと面白い作品を選択してくれるだろうけれども私の知識ではこれが限界。
- ウォード・ムーア
上巻「ロト」下巻「ロトの娘」- あちこちの都市に核兵器が落ちた。核戦争が始まったのである。この事態をあらかじめ予測していたジモン氏は、あらかじめ用意しておいたステーションワゴンにこれまた事前に用意していた今後の生存に必要な物資を積み込み、ここなら安全だと予測した避難場所へと家族と共に向かう。しかし用意周到なジモン氏にもただ一つ予測出来なかった誤算があった。妻と息子たちが現在の危険な状態をまったく把握できず、彼に対して不満を言い続けていることだった。生き延びるために冷たい方程式を解き続けるジモン氏の出した結論は……。
一見するとジモン氏の行動は共感を呼ぶかも知れないが、よくよく見れば彼は誰も助けようとしないのである。己の生き延びようとする本能に忠実なだけで、それを妨げようとする存在はあっさりと見捨ててしまうのだ。みんなで一緒に助かろうという精神は彼には全くない。
その結果、六年後、彼の計算の歯車が狂いだしたとき、見捨てられる存在へと変わっていってしまうのだ。続編「ロトの娘」ではジモン氏が虫歯が痛みそうだという予感からはじまり、それがいよいよ痛み出そうとする直前で終わる。歯医者などいない。ああ実に嫌な話である。
- ロバート・A・ハインライン
上巻「鎮魂曲」下巻「月を売った男」- 月に行きたくって堪らなかった一人の男の話。ハインラインもきっとその一人だったに違いない。私だってそうだ。
続編だからといって物語内の時系列もその順番通りというわけである必要性もない。ハインラインは最初に「鎮魂曲」を書いて後から前日譚にあたる「月を売った男」を書いたのである。
物語の時系列にそって「月を売った男」「鎮魂曲」の順番で読んでも構わないのだが、やはりここは発表順に読みたいところ。前日譚が書かれたことによって傑作が名作に切り替わる瞬間を味わってみよう。
- フレドリック・ブラウン
上巻「星ねずみ」下巻「星ねずみの冒険」- 「星ねずみ」はいろいろな本に収録されているのに対して、続編は朝日ソノラマ文庫海外シリーズの『機械仕掛けの神』に収録されただけ。まあ収録されないのにはされないだけの理由もあるのだが、正編の人気度と比べるとこの扱いはあまりにもかわいそうすぎる。続編なのに続編とは思わせないこの邦題も酷いよなあ。
- クリス・ネヴィル
上巻「ベティアンよ帰れ」下巻「Overture」- 短編として発表された作品を集めて長編化するという場合がある。シオドア・スタージョンの『人間以上』は三つの短編を集めたものだ。まあ完全に別れているので長編と言うよりも連作短編集といった方が正しいのだが、一方で、ヴァン・ヴォクトの『宇宙嵐のかなた』のようにヴァン・ヴォクト独特の製法によって三つの短編を一つの長編に仕上げられてしまった作品もある。
で、長編版『ベティアンよ帰れ』は短編版「Bettyann」と「Overture」を組み合わせたもの。短編版「Bettyann」は「宇宙少女アン」などという、よほどのことがない限り「ベティアンよ帰れ」の短編版であることなど気付きそうもない題名で翻訳されたことがあるのだが、もう一つの「Overture」は未訳。長編版が翻訳されているのでわざわざ翻訳する必要もない気もするが、存在するのであれば読んでみたいと思うのがマニアだ。
ロバート・ヤングがもてはやされるのであれば、この作品も今でも大丈夫だと思うのだが……。
- 山尾悠子
上巻「遠近法」下巻「遠近法・補遺」- 『山尾悠子作品集成』はおいそれと手の出る値段ではないので、別な意味で入手困難な作品となってしまっている。腸詰宇宙と名付けられた奇妙な世界。グロテスクで騙し絵のような世界は『隠し部屋を査察して』のエリック・マコーマックの世界にも通じる物があるけれどもその雰囲気はマコーマックよりも硬質。これがSFの方に近づくとテッド・チャンの「バビロンの塔」になるんだけど、「理」が勝ちすぎるとたんなる馬鹿話になってしまうので、やはりこの作品は絶妙のバランスと言わざるを得ない。
「遠近法・補遺」は続編というよりも、タイトルにあるように「補遺」だ。それ以上のものでもそれ以下のものでもない。従って「遠近法・補遺」だけを単独で読んでもあまり面白くない。
しかも実際のところは雑誌掲載時に枚数の問題でカットされた分を再構成した物なので厳密な意味において続編といえるかどうかは微妙なところ。両方あわせて始めて腸詰宇宙の全貌がわかる……わけではない。
- キャロル・エムシュウィラー
上巻「ロージー」下巻「育ての母」- こちらもハインラインと同様、後に前日譚が書かれた。ただし、作品背景が同じというだけで登場人物は違う。作者はまだ存命なので今後さらに同じ世界観の話が書かれてシリーズ化してしまうかも知れないところがこのアンソロジーとしてはちょっと辛いところだ。
妻子と別れそして戦争で愛犬を失った主人公。そんな彼のもとに戦闘用生物として作られた爬虫類のような生き物がやってくる。彼はその生き物に愛犬の姿をダブらせ、次第に心を通わせるようになる。「ロージー」が男と戦闘用生物との交流の物語であるのに対して「育ての母」はその生き物を育てる女との交流の物語だ。
戦闘配備されるまでの生育期間、その生き物は「育ての母」の元で育てられるのである。ライ豆ふたつ分ほどの脳味噌しかなく、感情や愛情などというものは持ち得ないはずなのだが、育ての母である彼女はこの生き物の行動にそれを見いだしてしまう。見事に対になっている話だ。
- 石黒達昌
上巻「平成3年5月2日、後天性免疫不全症候群にて急逝された明寺伸彦博士、並びに……」下巻「新化」- やたらと長い題名なのだが、実はこれ本文の一部であって題名そのものは無題である。
ハネネズミという架空の生き物の発見から絶滅までを論文形式で描いたものなのだが、読んでいてこれが何故か感動するのだ。なにか魔法が仕掛けられているとしか思えないのだが、これはむしろ自然界の持つ美しさによる物なのかも知れない。
一方、続編の「新化」はハネネズミとよく似たエンジェル・マウスを発見したことから絶滅したハネネズミの再生を企てようとする話。似たようなテーマを扱いながらもマイケル・クライトンとは対極に位置する話だ。ハルキ文庫から出ていたけれどもあっという間に絶版で、実にもったいない。
- フィリップ・K・ディック
上巻「変種第二号」下巻「ジョンの世界」- どちらもいろいろな短編集に収録されているのでわざわざ選ぶ必要もなかったのだけども、まあ見つかったので入れてみた。
映画『ターミネーター』の元ネタだとかさわがれたこともあったけど結局元ネタの座を勝ち取ったのは喧嘩屋エリスン。
- ハーラン・エリスン
上巻「少年と犬」下巻「RUN,SPOT,RUN」- 最期にちょっとルール違反をしてしまう。
実をいうと「少年と犬」には「EGGSUCKER」という前日譚もあって三部作なのだ。でもまあちょっとぐらいルール違反をしてもいいじゃないか、「少年と犬」の彼らたちがその後どうなったのかを読んでみたいというものだ。
ああ、だれかこんなアンソロジーを作ってくれないものだろうか。
いろいろな事情と思うところがあってもうひとつブログを作りました。
新しいブログで書いていることは、他愛もない書きなぐりの文章になってしまっていますが、興味のある方は新しいブログの方も見てやってください。
もうひとつのブログ --> abandonné cœur.
この記事へのコメント
これは面白い試みですね。
続編はたいてい、正編より面白くないことが多い…、というのは別としても読んでみたいアンソロジーです。
僕もとっさには思い付かないんですけど、なんとなく思い付いたものを。
フランク・R・ストックトン「女か虎か」と続編「三日月刀の促進士」
あとこれは、正続の作者が別なんですけど、
ロバート・ブロック「ジュリエットのおもちゃ」と続編ハーラン・エリスン「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
ブロックがポーの遺作を完成させた「燈台」とか、ヴェルヌがポーの続編を書いた「氷のスフィンクス」なんてのもありますね(これは長編ですが)。
続編はたいてい、正編より面白くないことが多い…、というのは別としても読んでみたいアンソロジーです。
僕もとっさには思い付かないんですけど、なんとなく思い付いたものを。
フランク・R・ストックトン「女か虎か」と続編「三日月刀の促進士」
あとこれは、正続の作者が別なんですけど、
ロバート・ブロック「ジュリエットのおもちゃ」と続編ハーラン・エリスン「世界の縁にたつ都市をさまよう者」
ブロックがポーの遺作を完成させた「燈台」とか、ヴェルヌがポーの続編を書いた「氷のスフィンクス」なんてのもありますね(これは長編ですが)。
Posted by kazuou at 2007年11月28日 17:58
フランク・R・ストックトンの「三日月刀の促進士」は「女か虎か」の解決編になるはずだったのに続編もリドル・ストーリーという人を食ったような話でしたね。
続編を別の人が書いたものが何かないかなと思っていたのですが、エリスンがあったんですね、さすがはkazuouさんです。素晴らしい。
続編を別の人が書いたものが何かないかなと思っていたのですが、エリスンがあったんですね、さすがはkazuouさんです。素晴らしい。
Posted by Takeman at 2007年11月28日 18:45
Takemanさん,しぶいところを押さえてこられましたなあ。
確かに,シリーズものは多いけれど,続編というと,意外にないですね。
乏しいストックですが,該当しそうなところを少し。
フレデリック・ポールの「黄金の時代」と「世界を食べた男」
―消費生活に追いまくられる人びとの話と,そういう時代を忘れられない人の後日談であります。
ヴァーナー・ヴィンジの「七百年の幻想」と「バーバリアン・プリンセス」
―文明崩壊後,本を船倉に積み込み,交易する人びとと君臨する女王様のお話です。
ラファティさんの「一期一宴」と「みにくい海」
―苦虫ジョンさんが出てまいります。女心ってねえ…。
ついでに,ラファティさんの,「カミロイ人の初等教育」と「カミロイ人の行政組織と慣習」も大好きです。
チャド・オリヴァーとチャールズ・ボーモントの「終わりの始め」と「われはクロード」―ハチャメチャなタイムトラベルものであります。
またまだあるかも知れませんが,コードウェイナー・スミスさんの「クラウンタウンの死婦人」と「帰らぬク・メルのバラッド」が最高だと思いますなあ。
確かに,シリーズものは多いけれど,続編というと,意外にないですね。
乏しいストックですが,該当しそうなところを少し。
フレデリック・ポールの「黄金の時代」と「世界を食べた男」
―消費生活に追いまくられる人びとの話と,そういう時代を忘れられない人の後日談であります。
ヴァーナー・ヴィンジの「七百年の幻想」と「バーバリアン・プリンセス」
―文明崩壊後,本を船倉に積み込み,交易する人びとと君臨する女王様のお話です。
ラファティさんの「一期一宴」と「みにくい海」
―苦虫ジョンさんが出てまいります。女心ってねえ…。
ついでに,ラファティさんの,「カミロイ人の初等教育」と「カミロイ人の行政組織と慣習」も大好きです。
チャド・オリヴァーとチャールズ・ボーモントの「終わりの始め」と「われはクロード」―ハチャメチャなタイムトラベルものであります。
またまだあるかも知れませんが,コードウェイナー・スミスさんの「クラウンタウンの死婦人」と「帰らぬク・メルのバラッド」が最高だと思いますなあ。
Posted by おおぎょるたこ at 2007年11月28日 20:04
次から次へと出てきて、おおぎょるたこさんも凄いですね。
たしか「終わりの始め」と「われはクロード」は『世界ユーモアSF傑作選』の一巻と二巻にそれぞれ収録されていたもの。うーむ、既に前例があったというわけですか。
たしか「終わりの始め」と「われはクロード」は『世界ユーモアSF傑作選』の一巻と二巻にそれぞれ収録されていたもの。うーむ、既に前例があったというわけですか。
Posted by Takeman at 2007年11月29日 15:40