『日本推理小説論争史』郷原宏

Takeman

2013年11月05日 19:32


  • 著: 郷原 宏

  • 販売元/出版社: 双葉社

  • 発売日: 2013/10/19

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SFのというジャンルの世界だと巽孝之の『日本SF論争史』とか、長山靖生『戦後SF事件史』といった本によって様々な人々によって行われた論争が紹介されていたのだが、ミステリの場合はそういう本がない。もっとも、僕が知らなかっただけかもしれないのだが、この本のあとがきを見ても、やっぱり今まで書かれたことは無かったようだ。
最初に紹介されるのが、都筑道夫と佐野洋による名探偵論争で、これはフリースタイル社からでた『黄色い部屋はいかに改装されたか?増補版』において双方の文章がすべて収録されているので、実際にどのような論争が行われていたのかは、そちらを読めばわかるのだが、この本ではそれらに対して、適宜引用をしながらも筆者自身の考えや解説がふんだんに挟み込まれ、それぞれの論争における焦点となる部分、さらには二人の論旨における不明確な点などが、丁寧に解説されている。
また、あとがきでは、紹介する論争の順序を新しいもの順にしたのはそちらのほうが読者の受けがいいという商売上の問題であると謙遜をしているけれども、この構成が実際に読み進めていると実に功名で、基本的にそれぞれの論争は単独で見た場合、相互に関連性の乏しい論争に見えながらも一部例外はあるものの実はつながりがあり、論争の時系列を遡るという構成にすることによって日本のミステリ史上における論争の原因、言い換えればホワイダニットを追求し解き明かしていく物語にもなっていて、この本そのものがホワイダニット系のミステリとして読むことができるのだ。

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