『衝撃波を乗り切れ』ジョン・ブラナー

Takeman

2011年05月20日 19:23

久しぶりにジョン・ブラナーを読む。
久しぶりといってもジョン・ブラナーの小説が新しく翻訳されたわけではなく、絶版となった本を手に入れることができたので読むというわけだ。
『衝撃波を乗り切れ』は『Stand on Zanzibar』、『The Jagged Orbit』、『Sheep Look Up』に連なる系譜の中で唯一翻訳された小説だ。ヒューゴー賞長編小説部門を受賞した『Stand on Zanzibar』でさえ、今さら読む価値のある物ではないという意見もあるらしいので、多分、これ以外のやつは翻訳されることなくこのままいってしまうんだろうなあと思う。
で、『衝撃波を乗り切れ』はどうなのかといえば、「ワーム」というコンピュータ用語を生み出した小説という歴史的な価値がある程度で、いまさらあえて読むだけの価値があるかといえば微妙なところかもしれない。
多分それはジョン・ブラナーの持つ軽さによるものじゃないかという気もする。テーマそのものは重苦しいものなのだけれども、表層の物語はエンターテインメントで、テーマと比べると軽いのだ。だからといってテーマと物語が分離しているわけではない。重いテーマなのにあっさり楽しく読むことが出来るという点で軽さを感じてしまうのだ。
内容的にはコリイ・ドクトロウの『リトル・ブラザー』とかぶる部分があるけれども、『リトル・ブラザー』がヤングアダルト向けにかかれていながらも安易なハッピーエンドにならないのに対して、ジョン・ブラナーはエンターテインメントに徹して『リトル・ブラザー』よりもハッピーエンドにしている。もう少し奥行きがあっても良いんじゃないかと思ってしまうし、今読むと普通の物語に見えてしまうのが難点なのだが、そこは先進性との引き替えで仕方のないことなのだろう。

ジョアンナ・ラスの言葉を思い出した。
「自分の本で書いている内容がいつか当たり前になりすぎて誰にも読まれなくなって、本棚の隅で埃をかぶっているような状況が来れば、そのときに私は勝ったことになるんだ」


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