2008年05月09日

地球最後の砦

地球最後の砦 (ハヤカワ文庫 SF 28)

  •  A・E・ヴァン・ヴォクト

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1971-06

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マイクル・スワンウィックの『グリュフォンの卵』に収められていた「時の軍勢」がヴァン・ヴォクトっぽいなあと思っていたら『地球最後の砦』のオマージュだという話を知って、探し出して読んでみた。
おお、これは確かにそうだ。うれしくなるほどスワンウィックはヴァン・ヴォクトを真似している。
それにしてもヴァン・ヴォクトって人は自分のことを神か何かそれに近い存在だと思っていたんじゃないのだろうか。
ここまで無茶で破綻しきっている物語を圧倒的なパワーで最後まで押し切ってしまうのは普通の人間じゃ出来っこない。まあ大抵は書き上げても恥ずかしくって世に出せないだろう。
後にも先にもこんな芸当が出来て、そしてそれが許されるのはヴァン・ヴォクトだけなような気もする。いやちょっと言い過ぎか。
しかし登場する人物のどいつもこいつも超人的な能力を発揮し、というか凡人として登場したはずの人間ですら物語が進むと驚くべき能力を発揮するのだから呆れて物も言えないのだが、何よりもラストの一文が凄まじすぎる。

可哀相に、何も知らないスーパーマン。

超人ですら「可哀想」といわれる扱いなのである。ヴァン・ヴォクトは自分のことを神か何かそれに近い存在だと思っていたに違いない。  

2008年05月08日

縹渺譚

縹渺譚 (1977年) (ハヤカワ文庫―JA)

  •  今日泊 亜蘭

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 1977-01

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たまに、ひょっとしたらこの人は死なないんじゃないかと思ってしまう人がいる。
山田風太郎がそんな感じだったし、アーサー・C・クラークもそんな感じだった。不謹慎な言い方になるのだが、もうそろそろ死んでしまうんじゃないかというような雰囲気を漂わせておきながら、飄々として生き続けている人たちなのである。
そういう雰囲気を漂わせている人が亡くなった場合、不思議と悲しくはならない。
で、今日泊亜蘭も僕にとってはそんな一人なのである。
それはともかくとして、困ったことにこの人は、なかなか本を書いてくれない。
とくに、三部作の構想をしておきながら二作で止まってしまうのである。
<根岸物語>シリーズも「瀧川鐘音無」と「新版黄鳥墳」で止まったままだし、『光の塔』とその続編『我が月は緑』も三作目の構想があるといっておきながらいつまでたっても続きがでない。
そして『縹渺譚』も、あとがきで三部作を構成すると書いておきながら、三作目を出さないのである。
ある意味、完結させるのを良しとしない性格なのだろうか。しかし、今もおそらく飄々と生き続けていること、そしてこの人は死なないんじゃないかと思えて仕方ないことを考えると、わざと書かないで読者を焦らしているんじゃないのかと思ってしまう。
まあそれはともかく、こういう文章に触れると、ああ日本人として生まれてきてよかったなあと実感するのだ。何よりもこの本には日本語のおもしろさと美しさが詰まっている。  

タグ :今日泊亜蘭

2008年05月07日

SCARDOWN―軌道上の戦い―

SCARDOWN―軌道上の戦い― [サイボーグ士官ジェニー・ケイシー2] (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-2 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 2)

  •  エリザベス ベア前嶋 重機月岡 小穂

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-04-09

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前巻と同様、相変わらずあらすじが先走ってしまっているのはどうかと思うわけでとにかく話が進まない。半分近く読み進めても中国側の熾烈な攻撃は起こらないのである。
もっともこれはあらすじに影響されて読んでしまった場合のことで、そんなもの気にせず読んだ場合はどうかといえば、やっぱり展開が遅い。前巻で行方知れずとなった人物がどうなったかなんてかなり後にならなければ判明されず、前巻の終わりで主人公が船に乗り込んだと思いきや、いつのまにか地球に戻ってきているし、予想外の展開が多い。
主人公のライバルになりそうな人物はライバルになる以前に危うく物語から退場しかけるし、中国側の描写も登場するけれども、中国側がとんでもない事をしてくる割には中国側の視点人物はいい人なので、落差が激しいし、主人公が憎んでいる人物は終盤でいきなりかっこいい見せ場を作ったりする。
というわけで、逆に考えれば予想を裏切る展開の応酬というわけであり、これほど意外性に富んだ物語というのも近年まれにみる存在だとも言える。まあどんな物語でも楽しもうと思えば、いくらでも楽しむための読み方というのあるのだ。
  

2008年05月02日

ライノクス殺人事件

ライノクス殺人事件 (創元推理文庫 M マ 8-3)

  •  フィリップ・マクドナルド

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-03-24

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あまり過剰な期待などせずに読めばけっこう楽しめる作品なので、文庫という形態で出たのはじつにありがたい。
「結末」から始まって最後が「発端」で終わるとくるとついつい過剰な期待をしがちなんだけれども、構成そのものにはあっと驚く仕掛けがしてあるわけではない。
しかし、だからといって単にやってみたかったからやってみたというようなレベルの物でもなく、この結末を効果的に生かすためだったらこのようにするしかなかっただろうなあという代物なので、読み終えた後に冒頭の「結末」を思い出して思わずニヤリとしてしまうのだ。
死人が出るのにそれほど悲壮感というか読後感は悪くなく、かといって不真面目でもなく、どちらかといえばコンゲーム小説を読んでいるような感じに近い。
とくに後半、一難去ってまた一難の状況において、ライノクス社の経営陣がそれを解決するための場面は読んでいて爽快。なによりも最後に決め手が知力ではなく腕力に訴える点が素晴らしい。知力で勝負ではなく殴り合いで決着をつけるのだ。  

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2008年05月01日

SFはこれを読め!

SFはこれを読め! (ちくまプリマー新書 81)

  •  谷岡 一郎

  • 販売元/出版社 筑摩書房

  • 発売日 2008-04

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新書サイズなのでそれほど期待はしていなかったんだけども、読んでみたらやっぱりその通りの内容だった。
海外作品が大半を占めてしまっていて国内の作品が少なく、採りあげられた海外作品に関してもその選択に偏りがあったりするのは、本書で取り扱っているテーマ分類ががちょっと変わった視点のものだったりするので仕方ないけれども、もう少し中身が濃くってもよかったような気もする。
『SFはこれを読め!』と挑戦的なタイトルなので読む方もそれなりの気合いを入れて読みがちなんだけれども、それはさておき、本書で採り上げるのはサイエンス・フィクションとしてのSFだけで、スペース・ファンタジーやスペキュレイティブ・フィクションは扱わないと言っておきながら、その境界線が曖昧なままだったりするのはちょっとまずいんじゃないのかな。
ジョー・ホールドマンの『終わりなき平和』が『終わりなき戦争』の続編と言ってしまっているあたりは、まあテーマ上の続編だとホールドマン自身も言っているので厳密には間違ってはいないけど、普通は続編という扱いはしないだろうから、本当に読んでいるのかお前、とつっこみを入れたくもなった。しかし一番大笑いしたのは、サイバーパンクを「サイバーパンクと呼ばれるアクションもの」と言い切ってしまっていた部分だ。この文章をブルース・スターリングが目にしたら、血の涙を流しながら激怒するんじゃないのかな。
というわけで、人によってこうも見方が変わるものだと思わず感心してしまった。そういう意味では実にワンダーにあふれた一冊だったよ。  
タグ :谷岡一郎

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2008年04月30日

神州魔法陣

神州魔法陣 (1981年)

  •  都筑 道夫

  • 販売元/出版社 桃源社

  • 発売日 1981-01

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振り返ってみると都筑道夫の本は意外と復刊されている。
創元推理文庫からは<退職刑事>シリーズと『誘拐作戦』、扶桑社文庫では『なめくじに聞いてみろ』、ちくま文庫からは『都筑道夫恐怖短篇集成』が三巻、本の雑誌社からは『都筑道夫少年小説コレクション』全六巻、そして光文社文庫は<なめくじ長屋>シリーズと『都筑道夫コレクション』の全十巻。
初期のトリッキーなミステリは網羅されているし、『都筑道夫少年小説コレクション』は入手困難だった作品と単行本未収録作品も多数収録と垂涎のコレクションだ。
というわけで今の出版状況を考えると、都筑道夫の復刊数に関してはまあ妥当なところなんじゃないのかと思うのだが、そこはファンの我が儘さで、時代物がもう少し復刊されてもいいんじゃないのかと思ったりもしている。
『神州魔法陣』などは桃源社で出た後、富士見時代小説文庫で文庫化されたけれども、やはり文庫化されたのがちょっとマイナーなレーベルだったせいか、埋もれてしまったままだ。もっとも、全著作のなかで最長の長編なので文庫化するにしても二分冊するしかなく、分量的な面でも不遇な扱いを受けていたという可能性も高い。
しかし、伝奇小説というのは長くなければ面白くないのだ。
いや、面白いからこそ長くなるというべきか。
この本も長さに比例する形で面白い……といいたいところだけれども、まあ……ちょっとそこまで言い切れないところが残念だ。
平賀源内が悪役というのはちょっと数少ない設定だろうし、独楽を自在に操る独楽使いのこそ泥や、やたらと腕の立つ謎の素浪人、アタックアンドカウンターアタックの物語といい、どこをどう切りとっても都筑道夫らしさにあふれていて、読んでいて楽しいのだけれども、手放しで楽しいのは江戸のまちを舞台とする第一部までだ。東海道を通って京都へと向かう第二部になると失速する。
主人公が移動し始めると個々の展開が断片的になり敵の攻撃がワンパターン化してくるのである。もっとも敵の攻撃のワンパターン化には理由があって、終盤にその理由が明らかとなるのでそれはそれで驚かされ、そして納得するのだが、だからといってそれまでの残念さが帳消しとなるとは限らないのである。
だからといって、第二部がつまらないというわけでは決してないのだけれども、都筑道夫の作品は、主人公があまり動き回らない方が面白くなるのではないだろうかと思ったりもする。  

タグ :都筑道夫

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2008年04月29日

四畳半神話大系

四畳半神話大系 (角川文庫 も 19-1)

  •  森見 登美彦

  • 販売元/出版社 角川書店

  • 発売日 2008-03-25

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森見登美彦という人は二作目でこんなにも濃厚な話を書いていたのかと思うと頭が下がる思いだ。
とにかく主人公がのたまう自虐的なセリフが私の心に突き刺さるいや、染み渡るのである。
無論、主人公と同じような学生生活を送ってきたというわけではないし、それに近い人生を送ってきたわけでもなく、かなりかけ離れた人生を送ってきたけれども、だからといって勝ち組だったのかといえば勝ち組からはかけ離れて負け組に近いし、上下関係で見れば要するに主人公と同じレベルにいたということである。
だからこそ心に染み渡るのだ、主人公のセリフが。
四つの話がそれぞれ入学したての主人公が取った行動によって起こった人生の分岐後の話であり、大きく変化していながらも大局的な視点で見れば小さな変化でありそして結末は同じという部分が素晴らしい。
ここまで矮小的かつ雄大な平行世界物の物語も珍しいのではないだろうか。特に四話目における無限に広がる四畳半世界はその極地である。四畳半という小さな空間が無限に繋がるのだ。矮小でありながら巨大な空間なのである。  
タグ :森見登美彦

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2008年04月28日

弥勒の掌

弥勒の掌 (文春文庫 あ 46-1)

  •  我孫子 武丸

  • 販売元/出版社 文藝春秋

  • 発売日 2008-03-07

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うーむ、実に変な話だった。
読み終えて、さすがは『殺戮にいたる病』を書いた作者だけのことはあるなあとひたすら感心してしまったよ。
『殺戮にいたる病』は「無責任社会派」などと言われたりしたのだけれども、この本も似たような感じだよなあ。
とにかく薄い本なので、複雑な事件などは起こらない。いたってシンプルで、それ故にどうでもいいような事件というか、謎そのものにあまり魅力が感じられないところがちょっと難点かも。しかし、どうでもいい謎などあるわけもなく、何かしら作者が企んでいるわけで、この物語がどんな地点へと着地するのだろうかと気になりながら読み進めるのだが、なかなか着地地点が見えない。しかしあまりにも見えなさすぎるので、もうどうなってもいいやという気分になってきたあたりの残り10ページほどで愕然とする。
いやはや、まあちょっとうまく出来すぎ何じゃないかと思う部分もあるけれども、一気に謎が解決してそして何よりも驚くのは身も蓋もないというか、なんとも無責任な結末の付け方なのだ。
うーむ、この酷い結末に思わず感心してしまったのである。  
タグ :我孫子武丸

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2008年04月25日

検死審問―インクエスト

検死審問―インクエスト (創元推理文庫 M ワ 1-1)

  •  パーシヴァル・ワイルド

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-02

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なんだかんだいっていろいろな本が復刊されるようになった。
その分だけ出版点数が増えていればいいのだけれども、全体の数が変わらないのであればそれだけ新刊が少なくなってきているというわけで、喜ぶべきなのかそれとも憂うべきなのか微妙なところで、特に東京創元社がここまで過去の作品を復刊し続けている有様は心配にもなってくる。
まあそれはともかく実に変な話だった。いや変な話というのは悪い意味ではない。全編に流れるユーモアは、新訳というおかげもあるかも知れないが、いま読んでも全然色あせていなくて楽しめるし、事件の真相はといえば、さりげない伏線と審問記録という体裁の巧妙な作りによってうまく隠され最後まで楽しむことが出来る。
全編全てにおいて無駄がないというべきか、分量的にはコンパクトにまとまっていながらも読み終えて十分な満足感を得ることが出来るという点はさすがだと言わざるを得ない。ミステリとしても、ミステリ以外の小説としても楽しめるのだ。
ああ、続編が楽しみである。  

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2008年04月24日

日の砦

日の砦 (講談社文庫 く 4-4)

  •  黒井 千次

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-14

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特に何か特別なことが起こるわけでもなく、ごく当たり前の日常が描かれているのだけれども、そこに描かれている日常は安定した生活であるのに何故か不安定な状態として描かれ、読んでいてこちらまで不安になってくる。
例えば、近所に住む老女が自宅の玄関の鍵をを開けようと四苦八苦しているので手伝おうとしたら鍵が合わない、という話がある。そして老女が持って出たのはこの鍵だけだという。合わない鍵でなぜ玄関の扉が閉まっているのか不思議なのだが理由は一緒に住む老女の娘が用心のためにオートロックにしたからである。
そして娘は夜にならなければ帰ってこない。ほっとくわけには行かないので自分の家に連れてくるのだが、主人公たちは、このまま自分の家に居座られてしまったらいやだなあなどと思ったりもする。困っている人をほっとけないけれども必ずしも善人ではない主人公たち。
夜になって老女の娘が帰ってきたので、老女がこんな時間まで外にいた理由を説明をしてあげようと老女と一緒に家まで行くのだが、老女はそそくさとチャイムをならし、半分ほど開いた扉からするりと家の中に入ってしまう。そして玄関の鍵はカチリとしめられ、誰も出ては来ない。主人公はその場に一人取り残されるのである。
その他に、家が老朽化してきたので立て直そうという話がある。
家族の会話でその話が出た次の日から、勝手口の扉が開かなくなったり、床がふわふわしているような感じがしてきたり、真夜中に何か大きい物がドシンと落ちる物音がしたりする。そしてその話の題名は「家の声」。
なにやらオカルティックな方向へと進んでいくのだが、超常現象などは起こらない。あくまで普通の日常が描かれるままなのである。しかし不安な気分は残ったままだ。
最終話では、結婚して外へ出ていった長男夫婦から、今からそっちに行ってもいいかという電話がかかってくる。いつもなら少なくとも前日には連絡を入れてから来るのに、何かあったのだろうかと主人公は考える。もちろん読者も何かが起こることを期待する。しかし、何があったのかは描かれないまま物語は終わるのである。
そして何があったのかわからないままという、もやもやとした得体の知れぬ不安感が頭の中に漂ったままの状態で本を置かなければならないのだ。  
タグ :黒井千次

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2008年04月23日

とある飛空士への追憶

とある飛空士への追憶 (ガガガ文庫 い) (ガガガ文庫 い 2-4)

  •  犬村 小六

  • 販売元/出版社 小学館

  • 発売日 2008-02-20

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その昔、『空戦マッハの戦い』というウォー・シミュレーションボードゲームがあった。
戦闘機によるドッグファイトという三次元の世界を二次元のボード上でシミュレートする、まあ、まさにゲームデザイナーの執念の固まりによって生み出されたようなゲームだった。
空中戦を楽しめるようにゲーム化したのではなく、かろうじてゲームとして遊べるレベルまで仕方なくシミュレートを簡略化したというゲームなのでとにかく覚えなくてはいけないルールは膨大だった。2秒程度のドッグファイトを30分以上かけてシミュレートして遊ぶのである。それなりの覚悟がなければ苦行に近い。しかもスプリットSやらバレルロールといったマニューバでさえシミュレート可能だったのだが、二次元上でシミュレートするので、盤上では小さな駒が右へ左へとちょっとだけ動くだけという視覚的には恐ろしく地味なゲームだった。
それはともかくとしてこの物語は、何処かで見たような設定、何処かで見たような展開、何処かで見たような結末でありながら、実によくできたウェルメイドの物語だ。
こう書くと全然褒めていないように見えるのだけれども、そんなことはない。いや実際、ここまですがすがしい物語は久しぶりなのである。
確かに欠点をあげればきりがない。どういう条件がそろえばこんな環境ができあがるのかさっぱり判らない大瀑布などは、まあファンタジーということでその設定に関しては目をつぶりまくったとしても、それでもせっかくこれだけのビジュアル的な要素を作り出しておきながら、世界設定の一要素としてだけしか使っていないあたりは文句の一つも言いたくもなる。
さらには、お前はドラえもんの四次元ポケットかと突っ込みたくなるほど、次から次へと奥の手を繰り出す主人公もどうかと思うのだが、終盤のドッグファイトにおける高速かつ高密度な展開は燃える。
ここまで見せてくれれば、我慢できない欠点でさえ何処かへと吹き飛んでしまうのだ。
まあ人によって見所は違ってくるだろうけれども、終盤のドッグファイトだけで私は十分に満足したのだった。  
タグ :犬村小六

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2008年04月22日

石の花

石の花 上 (光文社コミック叢書“シグナル” 11 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口 尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-01-31

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石の花 中巻 (光文社コミック叢書“シグナル” 12 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口 尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-02-29

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石の花 下巻 (光文社コミック叢書“シグナル” 13 坂口尚長編作品選集 1)

  •  坂口尚

  • 販売元/出版社 光文社

  • 発売日 2008-03-01

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シミュレーションゲームが好きなのである。
もっとも、どのくらい好きなのかといえばそれを語ったところで、「けっ、その程度の好きさ加減なのか」と嫌みの一つも言われそうな程度なのでここでは語らないが、ゲームを始める前の事前準備に一時間程度は平気でかかったボードシミュレーションゲームで遊んでいた程度は好きだった。まあ当時はそれしかなかったのだけれども。
なにしろ、畳半畳程度の薄い紙の地図の上に一センチ四方のボール紙で出来た数百個の駒を並べるのである。しかもむやみやたらと並べて良いわけではない。どこにどの駒を配置するかで勝負は決まる。ゲームを始める前から既に勝負は始まっており、強靱な精神力がなければゲームが始まった時点では既に気力は使い果たしてしまう恐ろしいゲームなのである。
さらには数十頁もあるルールブックを事前に熟読し頭の中にたたき込んでおかなければならない。そう、まさにゲームを始める時点で「オレがルールブックだ」と言っても構わない状態になっていなければゲームを始めることさえ出来ないのである。しかし、悲しいことにそんなことが出来ていたら今頃こんな生活をしているわけがなく、ルールの解釈の違いから、戦場がボードから離れ、物理的な肉弾戦へと発展しそうになったことも今では懐かしい記憶だ。
それはさておき、『チトー パルチザンの戦い』というボードシミュレーションゲームがあった。パルチザン対ドイツ軍というゲリラ戦をシミュレートした傑作ゲームだったのだけれども、ドイツ対ソ連、ドイツ対イギリス、連合軍対枢軸軍といった他のゲームと比べるとかなり地味だった。それ故に、興味はあっても結局のところ遊んだことはなかったのであるが、それが不幸の始まりだった。
「地味」という印象がこびりついてしまったのである。「パルメザン」チーズは平気なのに、「パルチザン」とくるとこのゲームのことが頭に浮かび、拒否してしまうのだ。そんなわけで、坂口尚の『石の花』も読まず嫌いで今まで通してきた。
が、今回反省の意味も込めてこの豪華版を読み通すことにした。
で、まず読み終えて、よくもここまで肯定もせず否定もせず、あるがままの世界を描ききったものだと思った。
無論、肯定する物は肯定しているし、否定するべき物は否定している。しかしそれはあくまで登場人物にそうさせているのであって、作者が表に出てそう言っているわけではない。
作者の主義主張は確かにそこにあるのだけれども、それは物語の中では目に見える形では現れていない。
というわけで、今まで目を向けないでいた自分に猛省を促したのだけれども、だからといって戦争を扱ったシミュレーションゲームを嫌いになったのかといえばそうでもない。
戦争ゲームをする視点と戦争について考える視点というのは違うのだ。他人はどうであれ、自分の場合は同じ視点で二つを扱うことは出来ない。
ゲームにする時点で物事は抽象化され、抽象化された時点で何かが失われる。
そして大抵の人間は抽象化しなければ物事を把握できないのである。
だから私は、戦争ゲームを楽しみ、そして戦争の悲惨さを描いた漫画を読んで涙する。どちらも矛盾無く存在する私自身なのである。  
タグ :坂口尚

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2008年04月21日

「瑠璃城」殺人事件

「瑠璃城」殺人事件 (講談社文庫 き 53-2)

  •  北山 猛邦

  • 販売元/出版社 講談社

  • 発売日 2008-03-14

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最初の舞台は、日本最北の地に建てられた「最果ての図書館」である。「1989年 日本」となってはいるものの、現実味など全くなく図書館の外には何もない空間が広がっているだけじゃないのかと思ってしまう。
さらにだめ押しで主人公たちは何度も「生まれ変わり」を繰り返しているというのだ。
思わず目眩がしそうな展開になってくるのだけれども、幻想ミステリとして考えれば作品全体に流れる雰囲気そのものは悪くはなく、これらがどのように合理的に解釈されるのかという部分に興味が出てくる。
しかし、読み手の期待はあくまで勝手な期待であって前作と同様に、「これはそういう設定なのだ、合理的な解釈など存在しない」という作者の言葉が響き渡る。
というわけで、何処までの部分が基本設定でどこからがミステリとしての合理的な解釈がつく領域なのかという部分が曖昧だった点が不満でもあるけれども、前作と同様、首を切断した理由が素晴らしかった。
あまりにも身も蓋もない切断理由に、次作でもとんでもない理由で首を切断してくれないものかと期待をしてしまうのである。  
タグ :北山猛邦

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2008年04月18日

墓標なき墓場

墓標なき墓場 (創元推理文庫 M こ 3-1 高城高全集 1)

  •  高城 高

  • 販売元/出版社 東京創元社

  • 発売日 2008-02

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今の基準でいえば、長編というよりも中編といったほうがい良いような分量だ。
いろいろなものをそぎ落としたというよりも盛りつけなかったといった感じに近いので良くいえば淡々とした雰囲気が漂っている。もう少しいろいろと盛りつけてもよかったんじゃないかとも思えるのだが、これが著者の第一長編であることを考えるとこれはこれでいいのではないかという気もしてくる。それ故にこれが唯一の長編であることが非常に残念で仕方ないのだが、無い物をねだっても仕方ない。
しかし語り口があっさりとしているのに対して、事件の方は込み入っており、意外な真相が待ち受けているのである。それ故に主人公が超人的な洞察力でもって一気に終盤を突き抜けてしまっている部分が惜しいのだが、それはまあ真相を見抜けなかった人間のひがみかもしれない。
というわけで欠点を挙げればきりがないのだが、読み終えてずっしりと響いてくる題名の意味とこの全体を流れる雰囲気の前にはそんな欠点をあげつらう気など起こらなくなってくるのだ。  
タグ :高城高

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2008年04月17日

HAMMERED―女戦士の帰還―

HAMMERED―女戦士の帰還 (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1) (ハヤカワ文庫 SF ヘ 9-1 サイボーグ士官ジェニー・ケイシー 1)

  •  エリザベス・ベア月岡 小穂

  • 販売元/出版社 早川書房

  • 発売日 2008-03-20

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もともとそれほど期待などしていなかったのに、その場の勢いで買ってしまい、買った後でちょっと後悔していたりもしたんだけれども読んでみたらこれがなかなか面白い。
もっとも、読んでも読んでもなかなか話が進展せず、二百ページぐらい読んでも二百年後に地球が滅亡するなんて気配すら感じさせなくって、ひょっとしたらオレが買った本だけ表紙カバーと中身が別物になっているんじゃないかって心配になってくるのだけれども、最近の海外SFの展開の遅さは覚悟の上なので平気だ。
むしろ、地球滅亡まで後二百年というタイムリミット、といっても二百年はちょっと長すぎて緊張感はまったくないけど、その事態を脱却するために、おりしも火星に不時着した異星人の宇宙船を解析して恒星間宇宙船を作り上げ、他の星へと目指すという展開はどことなく『宇宙戦艦ヤマト』を彷彿させる。
アニメ版はイスカンダル星から救いの手がさしのべられ、さらにエンジンの設計図まで貰ったのでちょっと違いすぎるけれども、石津嵐版の『宇宙戦艦ヤマト』では地球を救う方法を教えるから自力で来い、とメッセージが伝えられただけで、波動エンジンは不時着した宇宙船を解析して自力で作り上げたのでその部分は似ている。
さらには古代進と島大介と森雪の三角関係、というのが本当にあるのだ石津嵐版には、に対して本書でも三角関係が存在するし、中国が主人公たちに敵対する敵として存在するので、中国がガミラス星人的な役割を担っていると考えれば、失恋した島大介がガミラス星人に寝返ってヤマト内部で破壊活動を繰り広げるという石津嵐版の展開と同じようなことが次巻以降で起こっても不思議ではない気もしてくる。
とりあえず、地球の生態系を元通りにするつもりなど毛頭ないあたり、苦労してイスカンダル星にたどり着いてみれば、地球を元通りにする方法など無いから人間の方を人体改造して地球環境に適合させるしかないなどというとんでもない結論で終わった石津嵐版と似通っているので今後が楽しみだ。
もっとも、それだったら石津嵐版『宇宙戦艦ヤマト』を読めば済む話でもあるのだが。