『エヴリブレス』瀬名秀明

カテゴリー │徳間文庫


  • 著: 瀬名秀明

  • 販売元/出版社: 徳間書店

  • 発売日: 2012/11/2

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この本を読み終えて、なんだか今まで僕は瀬名秀明の小説の読み方をひどく間違えていたような気がした。
その一方でこの本の解説を読むと、瀬名秀明のアプローチの仕方が変わってきたということも書かれていたので、僕の読み方が間違っていたのではなく瀬名秀明の方が変化したともいえるかもしれない。
いずれにせよ、瀬名秀明が面白い作家になりそうな予感がするのは確かで、それは短篇集『希望』を読んだ時にも感じたことで、もっとも書かれたのはこの『エヴリブレス』の方が先だったのではあるが、『エヴリブレス』の中でもエンパシーやマジックなど後の作品で登場する概念や要素が重要な位置を占めていることを思うと過去の作品も振り返る必要があるのは確かだ。
この本はTOKYO FMのラジオドラマの原作として書かれた物語で、TOKYO FM側からセカンドライフのような仮想世界を物語に登場させるという縛りがあったせいで、この本の中でも似たような仮想世界が登場する。
その縛りがうまく機能しているかというと微妙なところで、それは現実のセカンドライフが一般にあまり浸透しなかったというか、一部のコアな人々達だけのレベルにとどまってしまっているということが原因で、作中で登場する仮想世界はセカンドライフとは少し異なってはいるのだが、それでもここまで広く浸透はしないだろうと思えてしまうのが微妙な原因なのだ。もう少しセカンドライフからかけ離れたレベルの仮想世界だったならばよかったのかもしれない。
この物語に登場する「エヴリブレス」という仮想世界のシステムは、パソコンにインストールすることで、そのパソコンのデータを捜査して持ち主のパーソナル情報を収集し、その結果を分身として創りだす。
現実問題としてはなかなかきわどいシステムなのだけれども、ちょっとおもしろい。そしてその分身は「エヴリブレス」の世界の中でなかば自立的に行動するのだ。そういう点では飛浩隆の<廃園の天使>シリーズと通じる部分があるけれども、「エヴリブレス」という世界が存続する限り、自分の分身は自分自身が亡くなった後でも存在し行動し続ける。
それはちょうど個人のブログが、その持ち主が亡くなった後でも、そのブログのシステムが存続し続ける限り存在し続けるのと同じでもある。

少しずつ世界は、死者の記録で埋め尽くされているのかもしれない。


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いろいろな事情と思うところがあってもうひとつブログを作りました。 新しいブログで書いていることは、他愛もない書きなぐりの文章になってしまっていますが、興味のある方は新しいブログの方も見てやってください。 もうひとつのブログ --> abandonné cœur.

 
 
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