2014年の漫画回顧

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もう一月も中旬になろうとしているのに去年のことを振り返るのもいかがなものかなとも思うけれども、とりあえず思いつくままに、というか思い出せるから印象に残っているわけで、そんな去年読んで印象に残っている漫画に関してちょっと書いてみよう。
そもそも、電子書籍で本を読むようになってから、物理的な制約を考える必用が無くなったせいで、漫画に関しては購読数が増えてしまった。
もっとも、物理的な制約を考えるのであれば新古書店で買って、読み終えたらまた売ればいいじゃないかという意見もあるだろうけれども、それじゃあ作者にも出版社にも何もも還元されない。お金を払って楽しむものであればお金を払って楽しみたいものだと思っている。

それはともかくとして、まずは、うすね正俊の『砂ぼうず』の新刊となる15巻が約四年ぶりに出たのは驚きで、その前の14巻は4年半ほどのブランクが開いていて、それというのも作者の健康状態の問題なので、読者としては物語の中身以上にハラハラ・ドキドキでもあるのだが、次の16巻目を読むことができるのはまたさらに4年後ぐらいなのかもしれない。

などと書いていたら、16巻が今月発売予定に上がっていたので驚いた。

いつ完結するのかもわからない作品もあれば、逆に完結した作品もある。
『刻刻』堀尾省太、『おやすみプンプン』浅野いにお、『羊の木』いがらしみきお、『時間の歩き方』榎本ナリコ、『千年万年りんごの子』田中相、『新世紀エヴァンゲリオン』貞本義行、『電波の城』細野不二彦。
『刻刻』は最後の最後にデウス・エクス・マキナ的な、それまで存在の気配すらなかった人物が登場してあのような結末にしてしまったのが残念なんだが、延々と何十巻も続く作品が多い中、8巻という適度な長さの中で高い密度と緊張感の物語と、何よりも爺さんの活躍を描いたのは素晴らしい。『おやすみプンプン』、『羊の木』と『時間の歩き方』、『千年万年りんごの子』は過去の記事に書いたので省くとして、『新世紀エヴァンゲリオン』に関しては、1巻が出た時に誰だったか忘れたのだが、このペースだと完結するのに10数年かかると言っていたのを思い出したが、実際はそれよりも多い20年だった。物語の着地地点に関して言えば、落ち着くところに落ち着いたとしか言いようのない結末で、意外性とか衝撃性といったものはないけれども、僕にとってはこの結末がいちばん心にしっくりと来る結末だった。
『電波の城』は前巻で怒涛の急展開を見せ、そこからはどうあがいてもハッピーエンドにはならない主人公の転落の物語になるしかならないところで最終巻となり、1巻を読んだ時には想像もつかなかった地点へと描き綺麗にまとめあげたと思う。うまく物語を着地させたという点では『新世紀エヴァンゲリオン』と同じ印象を受ける。

次に、1巻もしくは上下巻で完結している漫画で印象に残っている漫画に移ってみよう。
ちーちゃんはちょっと足りない』阿部共実、『バベルの図書館』つばな、『ラタキアの魔女』笠辺哲、『九月十月』島田虎之介、『五色の舟』近藤ようこ『子供はわかってあげない』田島列島は上下巻、『天国の魚』高山和雅、『春風のスネグラチカ』沙村広明、『カリブsong 狩撫麻礼作品集』は狩撫麻礼原作の作品集。
2009年8月に発表された『ダニー・ボーイ』から長編の発表がばたりと途絶えてしまった島田虎之介の新作『九月十月』はそれまでの作品と比べるとページ数がかなり少ない。これだけ待たされて、この分量かと思ってしまうのだが、待たされていた間に島田虎之介は異様な進化を遂げていた。長編の発表がない間でも短編はいくつか発表されていて、特に『マンガ・オブ・ザ・デッド』というゾンビを扱ったアンソロジーに収録されている「ZOMBIE」はそれまでの島田虎之介の世界からは想像できないというか島田虎之助がゾンビ漫画を描くという時点でどんな話になるのか想像すらつかなかったのだが、実際に読んでみても極めて異質で、もっとも、それを踏まえた上でこの『九月十月』を読むと、確かにつながっているというか、恐ろしさが際立ってくる。
『子供はわかってあげない』は最初、短篇集だと勘違いをしていて、第一話を読み終えた時点で、第一話の主人公達の物語りがこれで終わってしまうのが残念に思ってしまったので、続く第二話を読んで、この物語りが長編だと知った時には嬉しかったねえ。で、メインの物語とは関係のないレベルで細かなネタが注ぎ込まれてそれを発見した時の嬉しさと、無関係に見えた複数の出来事が次第に相互に関係しあう物語へと変化していく構成の妙といい、次作が楽しみな漫画家だ。
『天国の魚』は表紙の絵を見た時に、どこかで見た絵だなあと思い、気になったので調べてみたら『電夢時空』を描いた人だった。なんて書いても知らない人の方が多いだろう。何しろ僕自身だって高山和雅がその後も漫画を描き続けていたなんで知らなかったし、どう考えてもメジャーになりそうな絵柄でもないし、そういった点では講談社のアフタヌーン系の場所から出なければ単行本などでそうもない作風の漫画でもある。しかしそれが青林工藝舎から出るってのはそれにしても意外だったねえ。何処に着地するのか予想もつかない展開と意外な真相そして何よりも物語の結末で描かれる世界から感じとる感覚はSFでなければ感じ取ることの出来ない感覚で、久しぶりにこの感覚を得ることの出来た漫画だった。
『春風のスネグラチカ』は『幻想ギネコクラシー』の後にこんな物語を持ってくるかという落差の激しい物語で、シリアスな方の沙村広明。それでいてひょっとしたら現時点での最高傑作なんじゃないかというくらいの完成度。コンパクトに1巻にまとめあげたという印象はまったくなく、必要十分に語られ描かれた物語。
かつて、 岡崎京子の漫画を読むことはないだろうと書いた事があったけれども、意に反して狩撫麻礼経由で読むこととなったのが『カリブsong 狩撫麻礼作品集』。
といっても僕はそれほど狩撫麻礼原作の漫画が好きなわけでもない。ただ、かつて、狩撫麻礼がカリブ・マーレィ名義で原作を書いた作品があって、それが木崎ひろすけの『少女・ネム』。僕はこの作品が好きなのだが、残念なことに『少女・ネム』は1巻がでたところで中断し、完結すること無く木崎ひろすけは35歳という若さで夭逝してしまった。
カリブ・マーレィという原作者の正体が狩撫麻礼であることはあからさまだったのだが、それまでの狩撫麻礼の作風からみて『少女・ネム』という物語を書いたのは僕としては意外でもあった。
ちょっと話がそれてしまったけれども、漫画原作者って裏方的な存在として扱われがちなので、この本のように原作者名義での作品集というのは珍しいんじゃないかと思う一方、どこかで『少女・ネム』に通じる世界があったらいいなという思いもあって買ってみた。で、買ってみると岡崎京子の漫画が収録されていたというわけだ。もっともこれ一冊で狩撫麻礼の全てが判るわけでもなく、むしろ判らなさは募る一方であり、同時に『少女ネム』の世界があったわけでもなく、だからこそ、あの物語が続いていたとしたらどんな物語になっていたんだろうかということをあらためて思い巡らしたのだが、あれはあれで、中断してしまったことそのものが物語全体を表しているというか中断してしまったことで狩撫麻礼の作品から離れて木崎ひろすけの物語になったのだろうとも思う。

そんな過去の思いと現在とを結びつけるような作品がもう一つ。浦沢直樹の『MASTARキートン Reマスター』だ。
復活したというのは耳にしていたけれども、所詮は単発だろうと思っていたので、まさか一冊分描かれるとは思ってもみなかった。で、読んでみると主人公の少し年を取った描かれ方に戸惑いを覚えつつも、第一話はあちらこちらに旧作の第一話を彷彿させる要素が盛り込まれていて、その盛り込み方はうまいなあと思う反面、ちょっと何かが違うとう違和感もあって、勝鹿北星の原作バージョンのMASTARキートンはやはり無理だったかと思った。

三部けいの『僕だけがいない街』は年末に5巻が出て、そのラストで真犯人が判明した。おそらくこれで確定というかこれ以外に犯人になりそうな人物が見当たらないし、犯人に関していえばこれ以上どんでん返しを行ってもあまり意味はないだろう。ということでこの物語も終わりが見えてきたが、この本のタイトルは何を意味するのかはまだわからない。主人公の持つ能力が単なる物語の駆動という意味だけではなく物語そのものに密接に関係してくれるといいと思う。

海外の漫画に関して目を向けると、めでたく復刊した『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』原作アラン・ムーア、作画ケヴィン・オニール、『スーパーマン・フォー・オールシーズン』のコンビによる『スパイダーマン:ブルー』原作ジェフ・ローブ、作画ティム・セイル、『ポリーナ』バスティアン・ヴィヴェス、そしてマイク・ミニョーラのヘルボーイ以外の作品を集めた短篇集『驚異の螺子頭と興味深き物事の数々』が印象に残っている。
『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』は映画『リーグ・オブ・レジェンド 時空を超えた戦い』の一応の原作なんだけれども映画は登場人物だけ借りたオリジナルのストーリー。さらに登場人物はほぼ同じといってもアラン・クォーターメインは原作版ではアヘン中毒だったり、透明人間に至っては強姦魔で、およそ正義の味方からかけ離れている。
で、どっちのほうが面白いかといえばそういった毒がある分、原作の方が面白い。特にノーチラス号のデザインは惚れ惚れする素晴らしさだ。

2014年の漫画回顧

2004年に一度、翻訳されているけれども、しばらくして絶版。しかし人気は異常に高くて古書として高値がついていたけれども、今回めでたく復刊した。
もっとも、復刊したといってもアメコミやバンド・デシネの場合、大判のフルカラーなので3000円前後はするので気軽に買えるかといえばそうでもないけどね。
ポリーナ』は過去に記事に書いたので省略して、次は『スパイダーマン:ブルー』。
アメコミのヒーローを三人上げろと言われると、おそらく日本だと上位三人は、スーパーマン、バットマン、スパイダーマンになるだろう。
僕もアメコミは好きな方なんだけれども、不思議とスパイダーマンだけは買ったことがないのはやはりスパイダーマンがあまり好きではないせいだろう。
が、しかし、『スーパーマン・フォー・オールシーズン』のコンビによる作品となるとちょっと読んでもいいかなという気持ちにもなってくる。正直な話、ティム・セイルの絵は好きか嫌いかといえばそれほど好きではないけれども、ジェフ・ローブとティム・セイルのコンビにおける物語は叙情的で、読んでいるうちに絵柄の好き嫌いなどどうでも良くなってくるし、ティム・セイルの絵は時として一枚の絵としてハッとさせられる輝きを持っている。
『驚異の螺子頭と興味深き物事の数々』は久々にマイク・ミニョーラの絵を堪能させてくれたけれども、短篇集で、しかもタイトルにある螺子頭が主人公の話は一遍だけで、他の話は関連性は若干あったりはするけれども螺子頭が登場するわけでもなく、物語としては物足りない。

長かった物語も一区切りつくこともある。
一色まことの『ピアノの森』は25巻目にしてようやくショパンコンクールの結果が発表される。優勝者は予想通りというかハッピーエンドにするのであればこれ以外ないだろうという結果で、意外性があるわけでもないんだけれども、思わず涙が出てしまうくらいに感動させられた。相撲で喩えるならば横綱相撲とでもいえばいいだろうか。同じような同じような感動は幸村誠の『ヴィンランド・サガ』の14巻でも味わった。最近は長くなりすぎる漫画が多くて、コンパクトにまとまった漫画がもっと多くならないものかなという思いも強いのだけれども、こういう時は長く続いた漫画を読み続けてきてよかったと思う瞬間でもある。

評判が良かったので試しに読んでみた市川らくの『わたり鳥の話』は今ひとつ好みでは無かったのだけれども、気になったのが同じく『白い街の夜たち』。長編ということで、だったらなおさら敬遠するべきなんじゃないかと思うかもしれないけれど、どこか引っかかるものがあったので、自分の勘を信じてみて読んでみたら当たりだったのが市川らくの『白い街の夜たち』。『わたり鳥の話』が今ひとつだったのは短篇集で作品ごとに絵柄や雰囲気が変化していたせいかもしれない。現実のリアルな日本を舞台としながらもどことなく幻想的な雰囲気が漂っているのはこの作者の持ち味なのだろう。幻想的といえば阿部洋一の『橙は、半透明に二度寝する』も不思議な話だ。そもそも表紙の絵を見れば一目瞭然で、にこやかに微笑んでいる女の子の生首を抱え持って微笑んでいる少女が表紙という時点で何かとてつもなくいびつだ。続けて何作も読むのはキツイけれども、少し不気味で少しグロテスクで少し怖くてそれでいてユーモアと優しさと可愛さが少しいびつな形で存在している作品だ。

連載から描きおろしになった白井弓子の『WOMBS』も母体である雑誌、IKKIが休刊となってしまったので急遽次巻で完結ということになってしまい、作者自身のコメントによれば展開も駆け足とならざるをえないのが残念なのだが、その代わりに新作『ラフナス』が始まった。『WOMBS』よりも重苦しさが少なくエンターテインメント性が高いので気軽に楽しんで読むことができるのだが、この作者のことだから今後の展開はどうなるのかはわからない。
『ラフナス』が反重力物質「ラフナ」に溢れた惑星ラフナスという地球とは異なる異世界が舞台にしていて、この地球との差異の部分が物語としての面白さを担っているのと同様、砂の海を漂う巨船が主人公たちの世界である異世界を舞台とした梅田阿比の『クジラの子らは砂上に歌う』も砂の海という設定、そこに住む人々が持っている特殊な能力といった部分も含めて次第に明らかにされる展開がおもしろい。『ラフナス』はまだ1巻、『クジラの子らは砂上に歌う』は3巻が出たところ。

最後は山田参助の『あれよ星屑』について触れて終わりにしようと思うが、『あれよ星屑』についての文章は実は半年近く前に書いた文章だ。
僕はブログに書く内容を予め書き溜めておいて、その都度公開するようにしていた。妻が病気を再発をして以来、ブログを更新するのがいろいろな面で困難になってしまったのだが、書き留めておいた記事を公開し終わってからブログを中断するか、それともそのまま中断するか少し迷った。しかし公開するにしても文章の見直しはしなければならないし、そうなると、自分自身の過去と直面しなければならない。直面する勇気など出せそうもない僕はそのままブログを中断してしまったのだが、そんな書き留めておいた文章が幾つかまだ残っている。2014年の漫画ということであれば『あれよ星屑』に関しても書いておきたいので書き留めておいた文章をそのまま使うことにする。

雑誌を読むことが殆ど無いので特に漫画に関しては単行本となったものしか読まなく、今、どんな漫画が雑誌上で連載されているのかという点に関しては全くと言っていいほど疎い。
結果として書店で見かけて、その表紙絵にピンときたものか、あるいはネット上で評判になっているものしか読まないのだが、積読本が山となっている状況ではそのくらいの方がちょうどいい。
で、この本もネット上で少し話題になっていて、絵の方も嫌いではないタイプの絵だったので早速読んでみたら驚いた。
まったくもってこれほどの絵を描く新人が現れようとは思っても見なかったわけで、たまにこういう凄い人が現れるもんだよなあと思いつつネット検索したら、新人ではなかったので納得する一方、それまで自分のアンテナに引っかかってこなかったことに対する不甲斐なさみたいなものもちょっとだけ感じたけれども、引っかからなかったのはまあ仕方がないか。
読みながら感じたのは愛嬌のある絵柄に関して、特に女性のキャラクターもそうなんだけれども、男性のキャラクターの描き方にも愛嬌があるというか色気があることだ。ずいぶんと達者だなあと思いながら読んでいたわけなんだけれども、この作者がゲイ雑誌関連で漫画を描いていたということを知って、色気のある絵であることに納得した。
もちろんうまいのは絵だけではなく、終戦直後という時代を背景に、その時代の人々の生活や生きるために必死な状況、そして時代の暗部はもちろんのこと、ユーモアも交えて描かれる物語はバランスが良く、そして圧倒される。

ま、わざわざディスクの片隅にあったファイルを開いて持ってくるほど大した文章ではないけれども、この文章をもって2014年の漫画の回顧を終わりにしたい。


いろいろな事情と思うところがあってもうひとつブログを作りました。 新しいブログで書いていることは、他愛もない書きなぐりの文章になってしまっていますが、興味のある方は新しいブログの方も見てやってください。 もうひとつのブログ --> abandonné cœur.

 
この記事へのコメント
新年明けましておめでとうございます。刻刻と千年万年りんごの子は 前々から気になっていた作品なので これを機に読んでみたいです・・・・僕もかなり漫画を読むのですが かなり意表を突かれた作品として バニラスパイダー(講談社コミックス) 阿部 洋一 を上げたいと思います。遠藤徹さんのホラー作品が好きなら 読んでも損はないはずです・・・
Posted by higa higa at 2015年01月21日 18:33
higaさん、あけましておめでとうございます。

『刻刻』も『千年万年りんごの子』も結末の付け方に好き嫌いが別れるかと思いますが、読んで損はしないと思います。

>バニラスパイダー(講談社コミックス) 阿部 洋一 を上げたいと思います。遠藤徹さんのホラー作品が好きなら

おお、遠藤徹ですか。
たしかに、言われてみると阿部洋一の世界は遠藤徹の世界に通じるものがありますね。
今度、探して読んでみます。
Posted by TakemanTakeman at 2015年01月22日 14:20
 
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